コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 二重生活(1947/米)

ブロードウェイの道標。劇場の看板「アンソニー・ジョン、紳士の中の紳士」。エントランスの肖像画を見る男。振り返って、肖像画と重なる。彼がアンソニー・ジョン−ロナルド・コールマンだ。この冒頭から、二重人格の象徴的演出なのだ。
ゑぎ

  現在上演している「紳士の中の紳士」は、コールマンと元妻−シグネ・ハッソとの共演の舞台で、大ヒット中。舞台シーンは、劇場内、客席と舞台上を縦横無尽によく見せる。観客の拍手喝采。客席の後方には、事務所の広報担当−エドモンド・オブライエンがいる。この辺りの画面さばきは流石ジョージ・キューカーと思わせる。

 コールマンが所属するラスカー事務所の場面。ラスカー−フイリッフ・ローブが「オセロ」の企画の話をし、演出家のレイ・コリンズがその資料を持ってやって来る。実は、コールマンもハッソも、寄りを戻したがっていたのだが、しかし、「オセロ」に夢中になるコールマン。本作は役に成りきり、没頭するあまり、オセロに同化してしまった男の物語だ。

 本作の一番の見どころは、オスカー受賞のコールマンの熱演だというのは分かる。でも私は、これをオスカーに相応しいオーバーアクトだと思う。むしろ、彼の横にいて抑えた演技で画面を支えるハッソの造型こそ本作の美点ではないかとも感じられて来て、やっぱりキューカーは女優の演出家じゃないか、と云いたくなるのは私の偏見なのだろう。

 あと、細部の豊かさを感じられる部分は多々ある。例えば、「オセロ」上演初日の、オブライエンやコリンズらがナーバスになり、劇場内のバーで飲んでいるシーンがとてもいい。結局、この舞台も大当たりになり、この後、「オセロ」の終幕シーンが何度も繰り返し見せられるのには、ちょっと飽きが来たが。

 そして本作の特筆すべきはイタリアンレストランのウェイトレス役で登場する、まだ売り出し中の頃のシェリー・ウィンタースだ。レストランで給仕する場面で既に、すっごいセクシーだと思うが、コールマンを自分のアパートの部屋に誘い、露出の多い衣裳で再登場するのだ。この場が、電車の走る高架の側の部屋という設定もいい。二人がキスして暗転し、別シーンになるというカッティングにも驚く。これはウィンタースの出世作になって当然だろうと思う。

#備忘でその他の配役等を記述。

・新聞記者でミラード・ミッチェル、警部役はジョー・ソーヤー、頼りない検視官はウィット・ビッセル。彼らのおかげで犯罪映画っぽくなる。

・『ローズマリーの赤ちゃん』などの助演者ルース・ゴードンの脚本作品。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。