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[コメント] アトランティス(2019/ウクライナ)

厳密にワンシーン・ワンカットの長回し。シーン途中でカットが割られることは一切無い。また、多くは、主要な被写体を画面中央に配置する構図が選択される(私は、あまり「シンメトリー」とは感じなかった)。
ゑぎ

 また、固定ショットは多いが、移動撮影のショットもいくつかある。例を上げると、まず、工場(製鉄所)内。イワンが溶接の仕事をしており、セルヒーが来て、調子を聞く。イワンは眠れない、傭兵になって戦場に戻ろうかと思う、と云う。その後、上長が来て、イワンの溶接が手抜きだと叱る。こゝからイワンが奥へ(溶鉱炉の方へ)進む際に、唐突にカメラは前進移動する。あるいは、中盤、セルヒーが、メチャクチャになっているマンションの部屋を訪れるシーン。こゝは、彼が階段を登るところから、ステデイカムで追うショット。部屋の中で佇むと、必ず、画面中央にとらえる構図になる。彼の戦争前の住居か。壊れたピアノ。小さなスニーカー。手作りの人形をピアノの上に置く。あるいは、燃えている自動車と、その側に倒れている女性を助けるショットは、ずっと車載カメラで捉えた長い移動ショットで、非常にダイナミックな画面だが、やはり、固定する際は、被写体を中央にもってくる律儀さを見せる。そして、クライマックスと云っていいだろう、強い雨の中、道の遠く、かなり向こうから白い車が来るのを待ちポジションで捉えたショット。車には黒いチューリップのマーク。エンジントラブルがあり、カメラの前で停車する。すると雨が打ちつけるフロントガラスにカメラは移動でゆっくりと寄るのだ。こゝもズームでは無く移動。つまり画角が変化しない寄りのショットだ。セルヒーとカティヤとの、見えそうで見えない画面造型には心底唸る。

 さて、私も『リフレクション』を先に見たのだが、比べると、本作の方が幾分説明的に思える。例えば「戦争による地下水の汚染は、浄化するのに、この先何十年、何百年とかかるかも知れない」といった文言が科白で語られる。そういう意味では、説明的な演出を廃した『リフレクション』の方が私の好みだが、しかし、それにしても、本作の画面のスペクタクルには圧倒される。上にあげた、移動ショットは皆そうだが、サーモグラフィーのショッキングな使い方、工場夜景、でっかいタイヤをブルドーザーのバケット部で運ぶ場面(乗っける方法がなんか可笑しい)、溶鉱炉の中身を高台からぶっちゃける場面、これもブルドーザーのバケット部だろうか、セルヒーがホースを持ってやって来て、水を入れ、風呂にしてしまうショット。トボケた味のあるショットも、全部瞠目する画面になっている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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