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[コメント] 殺人者にスポットライト(1961/仏)

水辺の奥に城。暗いので夜か。ゆっくり前進移動している。舟で城に近づいているよう。このショットにクレジット。モーリス・ジャールらしい音楽。この城が主人公と云っても過言では無い映画だ。
ゑぎ

 続いて城の中。机の上の古い時計。騎士の衣装(後の科白でマルタ騎士団の正装とのこと)を着た老人、ピエール・ブラッスール。苦しそう。部屋には人形や彫像が沢山あるが、フランス人形を持って大きな鏡へ。横の留め金を触ると鏡が開き、中の小部屋へ入って椅子に座る。小部屋の中からは、マジックミラーで、外の部屋が見える。彼はそのまま息絶える。これがプロローグ。

 自動車、オープンカーを運転するミシェリーヌ−ダニー・サヴァル。横にはジャン・ルイ・トランティニャン。この映画、ブラッスールがクレジットトップだが、それは完全に騙しで、トランティニャンが主役なのだ。遺跡か?巨大な石の陰で着替えるトランティニャン。本作も隠蔽と暴露を繰り返す映画。礼服(喪服)に着替えた彼が入って行くのは冒頭の城だ。この城が近づいて来る、見た目のような移動ショットは不安定なショットで、ヒッチコックみたい。既に親族−従兄弟たちが集まっている。ブラッスール伯爵の遺体が見つからないので、相続は5年間お預け。その間の城の維持費はかかる、ということを聞かされる。一同が鏡のある部屋に入ったシーンで、マジックミラー側から撮ったショットにニヤける。

 その夜、池で泳ぐミシェリーヌ。彼女も隠れる、隠されるを体現する。ラストまで、親族の前には出てこないのだ。こゝで、トランティニャンは、城や先祖にまつわる言い伝えを囁くのだが、ミシェリーヌのアイデアで、それをショーにすることに。

 そして早々に、庭に大きなライト、各部屋にはスピーカー、ナレーションや効果音のコントロール室などが設置される。フランジュって電気や機械のガジェット好きだ。これらの装置を使って怪しく面白い場面を沢山作るのだ。ライトの修理で感電死する従兄がいたり、クレジットではトランティニャンより上位のパスカル・オードレ−ジャンヌは各部屋のスピーカーから流れてくる独白によって、強迫観念にかられてしまう。

 あるいは、城の中に鳥(カラス)が紛れ込んで死んでいる、というような鳥の演出や、白馬の使い方も、妖しさを増幅する。白馬を疾駆させるマリアンヌ・コッホ−エドウィージュの造型はイマイチ一貫性がないが、いいアクセントになっている。第一彼女の前傾姿勢の騎乗姿がいいし、厩舎で馬丁を誘惑するシーンのような、良い見せ場も与えられている。また、もう一人、従兄弟たちの中で浮いた存在のクリスチャン−ジャン・バビレは、いつも酔っぱらっていたり、不用意に短銃をぶっ放したりする不思議なキャラクターだが、重要な人物になる。

 そして、城の前庭での、完成したショーの場面も良く出来ている。現在ならプロジェクションマッピングなんかが使われるのだろうが、照明と、馬蹄音などの効果音とナレーションだけで、観客に想像させる趣向だ。これってけっこう鑑賞力が必要な出し物だと思うのだが、ショーとして成立するだけの納得性もあると感じた。何より映画として良い画面を作るし、きちんとタイトルを画面に実装するのがいい。ラストの葬送シーンの緩さも(いや全編がそうだが)、ふざけた音楽も、本作に相応しい洒落っ気だと思う。

(評価:★4)

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