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[コメント] クレムリンレター 密書(1970/米)

ヒューストンらしい挫折(というか突き放し)を描いた苦み走った映画。地味なスパイもので「手に汗握る」というようなアクションシーンもないし、メチャクチャ面白いという訳にはいかないが、しかし、矢張りヒューストン、安心して見ていられる。シネスコの画角も切り返しも見事だ。それに渋い見所は結構多い。
ゑぎ

 まず、アバン・タイトルで歩く男がマイケル・マクラマーで、この人はオーソン・ウェルズの『オセロ』以外で見たことが無かったのだが、この映画、配役はみんなえらい渋い。主人公がパトリック・オニールっていうのも最初は地味過ぎるだろうと思わせるのだが、次第に充分映画を背負って立ってしまう。悪役であるロシア側はマックス・フォン・シドービビ・アンデショーンというベルイマン組にオーソン・ウェルズがシドーの上司で黒幕という最強の布陣。ウェルズも程々に見せ場があるいい役で嬉しい。西側の組織にもディーン・ジャガージョージ・サンダースナイジェル・グリーンラフ・バローネと通好みのジジイの役者が並ぶが、紅一点、金庫開けの名人の娘としてバーバラ・パーキンスが登場する。性格もきちんと描かれないのはどうかと思うが、しかしこれがなかなか美しい。そして本作の演技陣で特筆すべきはリチャード・ブーンだ。私が見た彼の中で最高作かもと思える良い役で見事な存在感を示す。いつも大味な悪役、という印象のブーンだが本作では結局美味しいとこ総取りの役者冥利に尽きる役だ。

 あと、本作にはいくつかのシーンで倒錯趣味が描かれており、ある種の一貫性がある。一番びっくりしたのはジョージ・サンダースがゲイ・バーで女装して登場した部分でこれはちょっとキツ過ぎる。他にもヴォネッタ・マギーがレズビアンのスパイでワンシーン出てきたりする。極めつけは男娼に扮したオニールをアンデショーンが買うシーンで、このシーンは力みなぎる演出だ。こゝが映画全体を通じても最も良いシーンかも知れない。

(評価:★3)

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