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[コメント] 女房学校(1961/日)

ファーストカットは暗い廊下。画面右下に黒電話がある。電話が鳴って、廊下の奥に山本富士子が現れる。このカットが、すごい斜め構図なのだ。
ゑぎ

 私は斜め構図ギライなので、この先どうなることかと心配した。しかし、以降、中盤に数カットあったのみで、しかも冒頭のようなこれ見よがしなものでなかったのでホッとした。というか、この映画も全体を通してとても良く出来た面白い映画でした。

 電話を取る山本。相手はマダムXと名乗り、Pホテルの307号室に、あなたの旦那といる、と云う。タクシーで向かう山本。運転手は星ひかるで、よく喋る。消防車とすれ違うが、燃えているのは私の心よ、みたいな山本の科白がある。ホテルに着き、307に入ると、叶順子がいる。やゝあって朝丘雪路が来る。皆、山本と同じように、マダムXから電話があったのだ。この3人が揃った時点は月曜日の午前3時半ごろ。こゝから時間が遡って、土曜日の場面になる。つまり、本作は、土曜から月曜の早朝までのお話だ。そして、それぞれの夫婦関係の危機的状況にいたる顛末が描かれる。

 まず、3女優のパートナーの配役は、山本と森雅之、叶と川崎敬三、朝丘には川口浩だ。次に職業的な設定を絡めた関係を書く。山本は料亭の女将で、夫の森は、自宅で金魚の研究をしている。青い金魚を作ることに熱中しているのだ。叶は専業主婦。夫の川崎は大企業の課長で、山本の料亭をよく接待で利用している。なので山本と川崎は旧知の間柄。朝丘はテレビ局のプロデューサー、夫の川口は雑誌記者。川口と叶は従兄妹どうしで、かつてキスまではしたことがある関係だ。

 時間が土曜に遡ってすぐのシーンは山本と森の場面で、うだつの上がらない夫に対して怒りをぶつける山本。まくしたてる山本がいい!この人は笑いながら喋るのも上手いが、怒る山本も絶品じゃないか。テーブルを叩いてコップが飛び上がる演出も見事です。森が掛けている黒縁メガネが、ショットによって(吃驚したときなど)、掛け変えられ、レンズが光るのも面白い。出ていけ、と云われて森は素直に出ていくことになる。というワケで、仔細は割愛するが、山本は土曜の夜と日曜日を川崎と過ごすことになり、川崎の妻の叶は、従兄の川口と過ごす、さらに、朝丘は自分のテレビ番組に金魚の研究者としての森を出演させたくて、彼に接近する、という展開になる。ちなみに、朝丘は、まずは料亭に森を訪ねるが、留守なので、山本が面会するシーン。森のことを誉めちぎる朝丘が手前に立って話し、山本は苦々しい表情で奥の椅子に座っているのだが、これを俯瞰気味に撮ったショットは、とても面白い構図になっていて目に留まった。

 さて、3女優の魅力をどうしても比較してしまうのだが、やっぱり山本が一番ということになる。彼女が川崎からホテルに誘われて、逡巡しながらも付いて行く場面の表情の破壊力。夜のプールの場面で、プールサイドを歩く水着姿の移動ショットもタマランのだ。次に3人の内で、朝丘は、あからさまなセクシー担当として演出されていて、特に、ベッドハウス(簡易宿泊所)に泊っている森のところへ彼女が押しかけて来る場面のセクシーさはかなり過剰だ(胸の谷間!)。森の隣に寝ている大宮敏充らのリアクションも可笑しい。叶も充分に可愛いが、他の2人に比べると、どうしても中途半端な感覚を持つ。例えば、川口とのシーン以上に、婆やの浦辺粂子とのやりとりの方が良いシーンになっている。

 また、脇役で忘れがたいのが、森が留置所に入れられた場面で、同じ監房の中にいる西村晃だ。これが、戦争が続いていると思いこんでいる男で、妄想の戦闘シーンを大熱演するのだ。これは面白かった。あとは、山本の父親−小沢栄太郎と、叶の父親−千田是也という大御所二人が、いずれも娘に上手く諭す、キーポイントになる良い役割を担っている。ついでに書くと、朝丘に対しては、森がアドバイスする。このあたりも、井上梅次らしいよく考えられた作劇だと思う。

 終盤は、冒頭の続き、月曜午前4時頃に戻り、マダムXの登場となるが、実を云うと、最初の電話の声で既に誰が演じているか、多くの観客には分かっていると思う(クレジットにあった大物女優がこゝまで出てきていないし)。しかし、流石にマダムXの押し出しも、スピーチの口跡も見事なもので、やっぱりいい。エピローグはマダムXの乗ったタクシーが、鎮火後の消防車とすれ違う、という落ち着きのいいモノでこの作劇も洒落ている。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・千田と小沢は同じバーの常連客で、バーの女給には市田ひろみがいる。

・森が泊るベッドハウスの場面、大宮敏充の相棒は山田周平

・警察署のシーンで出て来る警官は関敬六で、署長は潮万太郎

(評価:★3)

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