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[コメント] 酔っぱらい天国(1962/日)

タイトル通り、沢山の酔っぱらいが出て来る映画。しかし「天国」は多分に皮肉な意味合いで使われている。主人公は、笠智衆で、次に出番が多いのは、倍賞千恵子だが、笠が完全に主役と云えるだろう。
ゑぎ

 笠は平凡なサラリーマン(会計課長)。しかし、飲むと性格が豹変する人物で、笠は見事な酔っぱらい演技で応えている。また、主要人物で酔っぱらうシーンがないのは倍賞だけだと思う。倍賞は、看護師で、笠の息子−石浜朗の恋人役。

 その他の主要人物をあげておこう。みんな酔っぱらいだ。まずは、笠の飲み友達の三井弘次。三井は登場時点でトップ屋と紹介されるのだが、終盤まで、たゞの酔っぱらいにしか見えないシーンばかりなので、その職業を忘れてしまうところだった。次に笠の姪だろう(笠をオジサンと呼ぶ)岩崎加根子とその夫で時計屋の伴淳三郎がいる。岩崎も酩酊シーンがあるが、伴淳には、都電軌道の上でクダを巻き、電車3台?を停めてしまう場面が強烈だ。続いて笠の息子の石浜とその友人の佐藤慶。二人が、佐藤の馴染みの(もうキスしたと云う)ホステス−有馬稲子の店へ行き、そこにいたプロ野球(東京ファイターズ)の有名選手−津川雅彦と喧嘩になったことで、本作のプロットは大きく展開する。ちなみに佐藤と有馬の出番は少ないが、都会的なエゴイスティックな雰囲気をよく出している。

 さて、画面に関して私が書いておきたいのは、まず、笠と倍賞の居所の美術装置についてだ。笠は持ち家、倍賞は看護師で寮住まいなのだが、いずれも土手下と云っていいのか、住居の近くにコンクリートの護岸壁のような大きな壁があり、階段のある場所に住んでいる。これにより、随分と閉所の感覚や閉塞感が醸成されているように思う。笠が死んだカナリアをこの壁に投げつけるシーンなんかが象徴的だろう。壁の下には古タイヤが廃棄されていたりする。

 また、笠の上司(専務)−滝沢修が、津川のチームの監督−山村聰を笠に引き合わせる料亭のシーンは、シネスコの画面をいっぱいに使った構図が目を引いた。画面左端に笠、右端に山村が正座しているショット。あと、津川が倍賞を無理やり車に乗せて、連れ回そうとするシーン。こゝの荒っぽい運転の見せ方は上手いと思った。しかし、このあたりから、むりやりな作劇が目立って来る。倍賞の心持ちの変転も、もう少し丁寧に描くべきだと思うが、彼女の父親、上田吉二郎はどういうキャラなのだろう。この人も酔っていたのか?とにかく、終盤の笠の顛末は予想外だったが、こゝまで皮肉っぽく描くのなら、いっそ、もっと暗澹たる結末でも良かったんじゃないかと思った。

 本作の一番良いシーンは、前半のまだホノボノ家庭劇の場面、小津のパロディのような、笠が息子石浜に「亡くなったお袋よりお前が可愛い」「結婚はまだ早い」と云い、石浜を投げ飛ばそうとするが、びくともせず、逆に投げられる場面だと思う。こゝの笠、とても可愛い。

#備忘でその他の配役等を記述。

・笠の家の近所の飲み屋「ぶらり」の女将は桜むつ子。笠の会社の部下で佐野浅夫。序盤と終盤の2回だけ出て来る酔っぱらった若い女は芳村真理。目立つ役。警察署の係官で穂積隆信。石浜を看る医者役で佐々木孝丸

(評価:★3)

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