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[コメント] 我が家は楽し(1951/日)

クレジットバックの音楽は「埴生の宿」。駅のホーム。2両編成の車両。笠智衆が改札から出てくる。反対側(住宅街の方)から、岸恵子が来て、笠にコーラスの発表会、と云う。
ゑぎ

 岸は本作が映画デビュー。笠の娘で高校三年生の役(実年齢も18歳頃)。この2人の会話場面は、正面バストショットの切り返しで見せる。駅名は映らなかったと思うが、調べると、昔の井の頭線明大前らしい。

 笠が帰宅すると、妻は山田五十鈴で長女は高峰秀子。下に小学校の息子と娘もいる。笠は、コウモリ(傘)を忘れたと云うが、皆、朗らか。家に来ている高峰の絵描きの友達は、楠田薫だ。この人が若くて吃驚した。終盤まで筋に絡むよく目立つ役だ。夜も更けて、岸は同級生と唄いながら帰って来る。「野ばら」。岸と高峰を比べると、序盤から高峰の寄りのカット、正面バストショットの多さで、高峰がスター扱いであることがよく分かる。『カルメン故郷に帰る』と同年の映画なのだ。

 もう少し配役のことを書いておくと、山田の妹で桜むつ子。何をしている人かよく分からないが、何かと顔がきくようで、山田の着物を売って来てくれたり、後半には高峰に仕事を世話してくれたりする。ちなみに、高峰は絵描きを目指していて給料をもらうような仕事には就いていず、それもあって笠の稼ぎだけでは、家計が苦しいという設定だ。あとは、高峰の恋人で、胸を患っており、湘南のサナトリウムにいる佐田啓二、隣人で大家、尚且つ笠の職場の後輩でもある増田順二、隣家のお屋敷に住むお爺さん−高堂国典あたりまでが主要人物か。

 笠は忘れ物(というか無くし物)をよくする人として描かれている。増田と一緒に夜遅く酔っぱらって帰ってきたシーンでは、帽子をどこかに忘れて来た、と云うが、それを聞いて、3ヶ月前に買ったところですよ、と云いながらも朗らかに笑っている、山田の鷹揚さに感動してしまう。また、笠が勤続25年の表彰を受けることになり、こゝで森永製菓の人事課長だった、ということが初めて分かる。表彰式でもらう、給料の2か月分という3万円の褒賞金の行方(というか扱い)についての描写もいい。笠と山田が日本橋高島屋で買い物をするのだが、自分たちの服よりも、子供の物−卓上ピアノ、グローブ、岸の修学旅行のための鞄、高峰には憧れている大宮画伯の画集を買う。しかし、その残金を列車の中で掏られてしまう(無くしてしまう)という展開で、これに対する山田のレスポンスも彼女の見せ場だろう。ちなみに、岸の修学旅行は京都と奈良旅行で、当時の京阪四条駅の風景が印象に残る。

 後半は、さらにいくつかの不幸(というかアクシデント)に見舞われるが、仔細は省略する。特筆すべき場面を一つだけあげるとすると、やはり、高堂が家の内見に来る場面だ(高堂が笠の住む家を購入したい、すなわち、笠たちは追い出されるという展開になる)。このとき、高峰が母親の山田をモデルに絵を描いているのだが、高堂が部屋に入ってきても、モデルの山田は微動だにしない。これがシュールな演出なのだ。あと、ラストは岸恵子が指揮をして、皆で「埴生の宿」の合唱で終わる、ということは書いておいてもいいだろう。全体に甘い作劇と演出だと感じられる作品ではあるが、今後も見られるべき名作だと思う。

#備忘でその他の配役等について記述

・隣人の増田順二の妻役は水上令子

・高峰が憧れる大宮画伯は青山杉作

・森永製菓の表彰式で登場する社長役は奈良真養

(評価:★3)

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