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[コメント] 告発のとき(2007/米)

PTSD(心的外傷後ストレス障害)にかかった大量の兵士がアメリカ国内に戻ってきている。その最大の原因は「一般市民の殺害・無差別殺戮等、非道な戦争体験で、女性や子供を殺してしまったという良心の呵責」である。その精神的ダメージを引きずったまま国に戻り、いきなり「普通の社会」に復帰するのである。順応できるはずがなかろう。
IN4MATION

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







テーマとしては『勇者たちの戦場』と似たものを感じた。

こちらはサスペンスタッチの実話ベースゆえに、そう感じたのは僕だけかもしれないが・・・。

負傷と社会復帰の困難、PTSDと精神疾患、社会不順応、薬物汚染・アルコール中毒の蔓延、妻・子どもへの暴力と家族崩壊、自殺と犯罪、職場復帰の困難、失業とホームレス化、所得減と生活苦、劣化ウランなどによる慢性疾患、そしてブッシュ政権による切り捨て政策等々。。。

今、アメリカはベトナム・湾岸戦争の後遺症よりもはるかに大きな病気に罹っている。

被害者の持つ自責感に対しては『悪いのはあなたではない』というメッセージを伝えることができる。

しかし、加害者に対しては、行為に見合った適切な自責感を持つことを、むしろ求めねばならない。

非難と自責感の苦痛に耐えて自らの加害体験を見つめ直すことは、よほど強靱な精神を持たなければ困難である。

加害者の立ち直りを促進する援助が難しいことの1つの理由である。

ところが米軍のPTSD対策は、全く正反対の治療をやっている。

イラク市民を虐殺した加害者である米軍兵士に「悪いのはあなたではない」と刷り込んでいる。

ブッシュが開戦したイラク戦争を正義の聖戦と位置づけるために、である。

要するに、もっと市民を殺せと「治療」しているのである。

ますます症状が悪化するのは当然だ。

まさに兵士の治療そのものが軍事目的のために歪められている。

戦闘の被害者として兵士の回復を援助する立場と、兵士を戦争の道具として考える立場の間には、どうしても相容れない根本的な溝がある。

戦争によるトラウマの深刻さを十分認識し、それを予防しようとすれば、戦争をしないのが一番である。

戦争のために「心のケア」を行うということが、そもそも根本的に矛盾した不可能なことなのである。

本作の劇中でも、「イラクに戻りたい」と言う兵士が登場する。『勇者たちの戦場』でも同様だ。

国のためと信じて命を懸けて戦って、必死の思いで戦地イラクから帰還しても、本国で英雄視されないのでは仕方あるまい。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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