コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 火垂るの墓(1988/日)

戦争の悲惨さなら、痛いほど伝わってくる。しかし、安易な自虐史観からの涙を持ち出すべきではない。民間人があれだけ殺されたのは、アメリカが国際法を蹂躙して市民殺傷のための都市爆撃を行ったからであり、日本があの戦争を戦ったからではないからだ。
かける

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作への一般的な感想の多くは「泣いた」「かわいそう」というものだ。しかし、GHQ=アメリカ政府のプロパガンダや、それによって洗脳された層(結果的に野坂昭如も含まれる)の言うことを後生大事に受け止めているあまりに、この作品での兄妹の死や、戦争の犠牲者そのものに対して、ナイーヴすぎるリアクションとなってしまったというのであれば、それはどこかおかしい。

そもそも、アメリカが日本に対して戦略的に行った都市爆撃に、非戦闘員、市民の直接殺戮を目的とした虐殺行為、一種の民族浄化として、あのホロコーストにも比肩する側面があったことを忘れてはいけない。

例えば、東京大空襲一つをとっても、わずか一晩で11万人という膨大な数の一般市民が虐殺されている。それら犠牲者を、全て軍需産業の関係者であると言いきったアメリカ軍司令官のプロパガンダは、あまりにも底の浅いごまかしだ。

また、その方便を構造的に追認するのが野坂昭如的価値観であり、戦争犠牲者の死の理由を、日本や日本人に帰結させる結論を持った読者(観客)も、日本の来し方行き方を全否定することで自虐的に喜ぶ屈折したマゾヒストとして、その欺瞞に追随しているにすぎない。

「市民が犠牲になったのは日本が悪かったからだ」「教科書に墨を塗らせた教師たちは変節が過ぎる」「パンパンは金と欲望の為に売春婦になった」一般的にも語られるそういった自虐は、事実誤認の中傷ですらある。

一体誰がそうさせたのか。そして、そういう「戦後」の歴史を共通認識として教育させようとしたのは誰なのか。もちろん、GHQの"War guilt information program"に他ならない。

かの戦争における日本の加害責任をはっきりさせることは、もちろん必要だ(そしてそれは充分になされていない)。しかし、もう一方の当事者のアメリカにも当然存在する加害責任を、まるで無かったことにでもしようとする人たちの存在は、自虐を通り越して自殺行為に等しい。彼我の是は是、非は非とする姿勢を持たず、「丑松思想」を振り回すことには、なんの理もないだろう。

(評価:★1)

投票

このコメントを気に入った人達 (11 人)Orpheus stag-B[*] ユキポン ビビビ[*] よだか ロボトミー[*] Myurakz[*] ina ボイス母[*] こしょく[*] ジャイアント白田[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。