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[コメント] 装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ 劇場版(2008/日)

映画館に30〜40代の中年男性を集わせる、究極の親父アニメ『装甲騎兵ボトムズ』を二十余年愛し続けた俺ゆえに、敢えて甘い点数をつけるが、本来このエピソードからTV本編へ話を繋げるのには無理がある事実は否めない。ラストの1カットでは誤魔化されないぞ。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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軍帽にサングラス、コートを身に纏って、敬礼するAT部隊の列の中央を往くヨラン・ペールゼン大佐閣下!うおお、この格好よさは何だ!?いきなりこんなカットから映画を始めてくれる、高橋監督のセンスのよさには思わず見惚れる自分がいる。およそ女性という女性が一切登場しない、このド硬派アニメに学んでくれる時代錯誤監督はいないものか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!…などと我を忘れてしまうミーハー気分で鑑賞を続けようと努力し続けた俺ではあったが、哀しいかな、自分の眼はもはや二十余年前に遡ってくれはしないのだ。

無理がある。

TV版の完全なるリメイクを、何故監督はやってくれないのだろうか?三部作で『機動戦士ガンダム』ばりに、しかも完全新作を発表するのも、高橋監督、吉川脚本でできそうなものだが。それをせず、キリコが己を異能者と認めている過去からストーリーを始めるこの作品にはやはり無理がある。筋金入りのファンである俺でさえそうなのだから、一見さんには何がなにやら判らないだろう。ケツ野郎(ボトムズ)から神の座まで登りつめ、そして自由意志を持って神を殺し、戦乱の世すら偽善の秩序よりはマシだと愛する人造人間とともにこのステージから降りた稀有なる男。それを語らずして、彼の味方であれ敵であれ、限りなく人間臭い男たち(ごく稀に女たちw)の魅力は語れまい。そこにスポンサーの浅はかさがある。

既に本編に於いてキリコの異端者ぶりは語られているのだ。ブーイング覚悟で言えば、フィアナのいない『赫奕たる異端』に続くストーリーを自分は期待する。キリコを人間に留まらせる鍵としては、フィアナ亡き後はテイタニアに一縷の望みを託すしかないではないか。作られてしまったストーリーには存在意義がある。テイタニアにはあそこまでで終わって欲しくない。ロッチナとはまた違ったアプローチのしかたで、キリコ伝説の語り部になってはくれまいか?そこから人間の位階に一歩ずつ降りてゆくキリコの物語が、新たに語られるように思われるのだ。

さて、あとは些事を。ATをCGで描くのにはやはり馴染めなかった。『マクロスシリーズ』のバルキリーや「ガンダム」のような作品には似合っても、砂塵に汚れ濁水がしみ込み、銃弾に風穴が開けられるボトムズには、作画スタッフの情念のこもるアナログ的な描線こそ相応しい。勿論、大画面で見るスコープドッグは、数知れぬ傷とサビ色に彩られていることに気づくのだが、99%の観客に認められても自分は敢えてCGを拒みたい、そんな思い入れをATに抱くのは確かだ。

そんなわけで前言とは矛盾するが、よく出来た総集編映画、というジャンルに於いては辛口の点をつける。理由は一つ、この作品は映画だからだ。

(付記)柳ジョージの歌の使い方は、はっきりとヘタである。

(評価:★3)

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