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[コメント] 鉄人28号(2004/日)

鉄人28号』というロボット映画と見れば物足りないかもしれない。だが、「金田正太郎」という少年の成長譚として見れば流石は『ごめん』の冨樫森、大いに満足できる出来映えである。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







まずブラックオックスという敵ロボットの大活躍が目を引く。東京タワーを捻じ曲げる怪力を見せつけ、増上寺境内に落下しても、あの「Dr.フーのオモチャ」とは違ってピンピンしている。ここまでを見れば、さぞかし鉄人はそれに負けない活躍をしてくれるだろう、と期待しない方がおかしかろう。だが初期タイプの鉄人は正太郎の不慣れな操縦もあってかマヌケな行動を繰り返し、簡単に倒されてしまうのだ。なんだ、この醜態で大丈夫なのか?と思う向きも、この鉄人の行動が正太郎の心の反映だと知れば納得がゆくだろう。

正太郎は決してヒーローではない平凡な少年である(動体視力に優れる、といった才能は抜きにして)。先生に誉められるくらいを喜びとし、転校先で悪童たちと詰まらぬ喧嘩もし、ラジコン飛行機を友とするくらいの。それを好き好んでではなく鉄人の操縦を委ねられ、ろくな戦いもできなかったくらいで知らないお姉さんから「ヘタクソ!」と吐き捨てられる経験をしてしまえば、誰に頼まれようと鉄人になど近づくか、という気持ちになって当然だろう。だが、その彼の肩に鉄人関係者のみならず、たった一人の母親、学校の級友たち、そして「好きになった(もちろん友達として、という言い訳が何とも可愛らしい)」お姉さんの期待がかかっていると知れば、俄然力が湧いてこなければ嘘だ。彼の特訓に合わせて鉄人はパワーアップされ、我々になじみのあの姿になる。だが、鉄人とブラックオックスの最終決戦すら、実はこの映画にあってはお添え物なのだ。あの妙に小奇麗なCGと丸判りのロボット同士の対戦は、自分にとっては全く退屈なお約束場面でしかなかった。人の期待に応えることを知り、また祖父の作った兵器を父が平和的作業機に改造した理由すら理解するに至った、あの正太郎の風貌のほうがずっと輝いている。

というわけで、試写会の日にはもはや声変わりしていた池松壮亮の自然体の演技はじつに爽やかであり、ミスキャストかと心配していた正太郎をサポートするお姉さん、蒼井優のきびきびした台詞回しも実に決まっていた(監督にはのんびり口調が「ヒロインらしくない」と何度もダメ出しされたのだそうだ)。他の正太郎とからむ少年たちの演技もまだまだではあるが実に初々しく、この作品を良質の児童映画にする手助けをしていた。

デビルマン』のように上映期日が大幅に遅れたことから、負けず劣らずの愚作ではないかと怖れている方には、是非だまされたつもりでの一見をお薦めしたい秀作である(ただし、原作に過度の思い入れのある向きは、一度それを取っ払ってから鑑賞して頂きたい)。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)ナム太郎[*] 直人[*] torinoshield[*] 新町 華終[*]

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