[コメント] ミッドナイト・エクスプレス(1978/米)
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この映画が放つものとして社会性以外の要素を挙げてみようと思う。
考えすぎかもしれないが、この映画での刑務所は少しばかり隠喩的であると感じた。当人にとって水のように重要なものの喪失。長期間の渇きは精神と肉体をのた打ち回らせる。渇望しているものは絶望の内部に存在する。恋人が面会に来るシーンがこの映画の裏のピークであると思う。幸福や快楽の何たる儚さ、脆さ!悲痛なシーンだ。しかし同時にこの映画の中では、最も(そしてラストを除く唯一の)幸福なシーンであるのも事実なのだ。その瞬間、ビリーにとって恋人は神をも超越した存在になったはずだ。幸福であることは本当に幸福なのだ、と思わずにはいられない。幸福になる希望や権利を剥奪してしまう、という点で肉体的過酷さに匹敵する苦痛を刑務所という装置は産み出しているのだ。この映画を観るまで刑務所とはただただ耐えていればよいという印象があったが、そんな単純ではなく、相当ヤバい精神的苦痛を伴うのだと気付かされた。刑務所に入る予定はないけど・・・。
■楽しい映画ではないがレベルは高い。オープニングのしつこいほど鼓動の音を使った演出は並みのサスペンス映画の100倍ぐらいハラハラした。逮捕されなければこの映画は成立しないと分っていても、「捕まらないでくれ」と祈ってしまったほどだ。また、最期の1秒まで何が起こるか分らず気が抜けなかったのも事実だ。最期のカットでようやく緊張の糸が解けた感じだ。知らず知らずのうちに観ている自分も囚人となっていたのだろう。社会性がまず第一に語られるべき映画なのだろうが、サスペンスの面から見た出来は間違いなく一級品だと思う。
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