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[コメント] シカゴ(2002/米)

ブロードウェイ発の王道ハリウッドミュージカルが21世紀型として最高水準で甦った。愛だの恋だの謳わず、からっとして不道徳で退廃的で楽しい。こんな不埒な作品にオスカーを与えるなんて、アカデミー賞もやるじゃん。久々に本場が認めた本場の味を堪能しました。
新人王赤星

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アメリカのショウビジネスの世界でいかにミュージカルが敬愛され重要視されているか。いかに身近な存在か。知った顔の俳優達がこれほどまでのミュージカルを見せてくれた事実、ミュージカル初心者のレニー・ゼルウィガーがここまで演じ切った事実が物語っている。ミュージカルを作る土台が違うと素直に感嘆せざるを得ない。

キャサリン・ゼタ・ジョーンズの奇跡的な歌と踊りは説明不要。レニー・ゼルウィガーもしたたかで頭の足りないブリブリっ子キャラがロキシーを成立させている。整った美人ではなく、どこか崩れた愛嬌が売りの彼女は成り上がり根性溢れる貧乏臭い子猫にぴったり。ハスキーな歌声もはまっている。リチャード・ギアは正攻法ではなく、ひしゃげた声とだらしない体から発散される胡散臭さでキャラに走り成功。登場シーンから笑ってしまった。彼はジゴロを演じるよりもこっちの方がいい!

とにかくこのミュージカルはテンポが良い。それはミュージカルシーンを中心とした編集が支えている。セリフと仕草も流れるように決まっている。ミュージカル映画が舞台に対抗するのは自由なズームと編集だ。表情やしぐさを追いかけ全体のバランスを壊さないギリギリ一杯の迫力とリズムを生みだしている。記者会見をはじめとしたセリフ(現実世界)と歌(ミュージカルシーン)のカットバックのかっこ良さ。

予算の都合でCGを使わず舞台装置とセットだけだったミュージカルシーンは、おかげでライブ感が増し、手触りの感触によるゴージャスさとソフィスティケーションが加わった。暗闇に浮かぶ「ROXIE」の文字、「セル・ブロック・タンゴ」における鉄格子、記者会見における人形劇・・。吹き替えなしで肉体と歌の真っ向勝負という、ミュージカルの核の質の高さを際立たせてくれた。

こういう映画を見ると、このレベルのミュージカルは日本人には無理かな・・、とさえ思ってしまう。ダンスや歌の技術なら訓練次第で追いつく事も出来るかもしれないが、それだけじゃなく豊かな表情と仕草を自然に表現しているのが素晴らしい。これって天性かな?と観客の僕に思わせたのだ。その象徴がキャサリン・ゼタ・ジョーンズの一人二役の「必死のベルマ」だ。

群舞あり、個人技あり、歌い語りあり、OPの「オール・ザット・ジャズ」からKOされっ放しだった。そして全体を覆う茶番臭さ。裁判所での振る舞いや、倒れこみ妊娠を訴えるレニー・ゼルウィガーと抱きかかえるリチャード・ギア。高度なミュージカルで表現されたアホらしい茶番、最高。

最後の大フィナーレ、「人を殺めたという華麗な過去を持つ二人の女性ロキシー&ブェルマ!」という紹介で銃を持ち出す二人のブラックジョークに爆笑の観衆、そして喝采。これを笑える人は、僕のように楽しめるはず。底辺に生きる欲望丸出しのビッチ達の皮肉に満ちた成功物語に拍手!アドレナリンが溢れ出し体がうずく衝動と戦いながらの鑑賞だった。どいつもこいつも欲望に一直線でどこか間抜けで気持ちが良い。湿っぽさや説教臭さは微塵も感じないこれぞエンターテイメント。悔しいが、やっぱりミュージカルはアメリカだと認めてしまおう。

劇場に三回足を運んだ初めての作品でした。家で見ると違う作品に見えたが。。

(評価:★5)

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