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[コメント] アリ(2001/米)

「タタカワナイ」という決断の意味するところも「タタカウ」こと。闘う男アリの姿は観ている側にも熱いハートを届けてくれるはず、と思っていたら………、あれ?
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







冒頭のジョギング・シーンの静けさや不思議な色合いが作品への期待を高め、他にも列車の窓際にもたれるシーン、ふと屋上にたたずむシーンなどの空気は確かに張り詰めていた。

その後のアメリカのラッパーもよく口にする"What's my name?"は奪われた名前を取り戻すための闘争宣言。自己の承認を得るための闘いは胸をうつ。黒人としての承認を勝ちぬくという選択は、アメリカ国家を敵にまわす行為にアリを導いていく。ラリー・フリント(ミロシュ・フォアマン作品『ラリー・フリント』参照)なども思い出すが、それ以上に彼はアンチ・アメリカの「アメリカン・ヒーロー」である。

しかし、作品自体に関しては、最高裁で無罪を勝ちとって以降は話が盛り下がってしまったという印象を否定できない。余計なものを捨象してリングについて話を絞っていくという決断は(普通は潔い決断ということになるはずが)、本作に関してはむしろ前半部分に満ちていた緊張感を弛緩させてしまった感がある。闘う男の話なのだから、弛緩してしまっては台無しだった。 

フォアマン戦でのアリはむしろ虚ろな表情をしているという印象だったが、あれは何だったのだろうか。そこに何かがあったかもしれないとはいえ、いずれにせよ前半部分のテーマとはかけ離れてはいるだろう。

闘う男、アリの姿を納得のいく形で捉えた映画が今後あらわれることに期待したい。これだけの素材なのだから…。

(余談)

*ベトナム戦争では多少数が多かったとはいえ、あのアメリカで兵役拒否をするというのはよっぽどの行為である。(国の圧力だけではなく、周りの圧力もすさまじいものがある。)卑小な意地ではとてもできるものではない。

*本作では描かれていないが、あのオリンピック聖火式での登場は、長年の確執を経たすえのアリとアメリカの和解と見るべきか、「敵」すらもイメージ戦略として強烈な愛国心のなかにとりこんでいくアメリカの不気味な包容力と見るべきか。まあおそらくは両方だろう。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)アルシュ[*] G31[*] けにろん[*]

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