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[コメント] 男はつらいよ 寅次郎と殿様(1977/日)

「俳優」というより「役者」と呼ぶのが似合う人たち。
NAMIhichi

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







男はつらいよ』のシリーズを観ると、たいてい知らない俳優が出てくる。この作品にも何人か出てきたが、その中でも強烈だったのは、もちろん嵐寛寿郎三木のり平だった。自分の語感では、「俳優」というより「役者」と呼んだ方がふさわしい人たちだ。

執事の吉田(三木のり平)に腹を立てて、殿様(嵐寛寿郎)が刀を取り出すシーンがあった。おそらく最大の見せ場であり、寅さんが「殿中でござるぞ!」などと言う。いくらなんでも、という展開ながら、おかしくて笑ってしまう。吉田は「殿、ご乱心でござるぞ!」などと言いながら廊下に出ると、途端に「宮仕えはつらいねえ」とぼやきながら、さっさと立ち去る。爆笑しながらも多少の驚きがあった。こんな虚構に満ちたシーンを無理なく演じ、観る側を白けさせない役者の存在、そして、「自分の人生で役を演じている人物を演じる役者」という構図に。

「役者」という言葉は、「俳優」の古い言い方だが、人を誤魔化したり、騙したりする人間を指して使われることもある。別に悪い意味ではなくても、人は自分の人生で、何らかの役を演じていることが多い(私は時々、意識して親の前で「いい娘」を演じることがある)。この作品に出てくる、「殿様」と「執事」という前時代的な人物も、役者が演じているにもかかわらず、あたかも彼らが自分の人生で与えられた役を演じているかのような錯覚を起こさせる。生まれてみたら「殿様」だった、気がついたら「執事」になっていた、というように。見当違いな感想だが、見終わったあとに、そんなことを考えさせる強烈な役者が出ている映画だった。

殿様役の嵐寛寿郎という人が、昔、「鞍馬天狗」を演じたということを、二、三日してから知った。それでオープニングの夢が「鞍馬天狗」だったのか、観る前に知っていればなあ、と少し残念だった。

もちろん、もも引きをはいた寅さんの「鞍馬天狗」も充分、面白かったけれど。

(評価:★4)

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