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[コメント] メカゴジラの逆襲(1975/日)

初代『ゴジラ』と合わせ鏡のような構造の作品。実質上ゴジラシリーズはこれで終わってます。弱さと強さ、愚行と英知、憎悪と愛、人間の両面を見届けて、ゴジラは去っていきました・・・
ジョー・チップ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







暗い、愉しむところのない映画である。登場人物(特に男性)は最初誰が主人公だか分からないほど個性がない。誰も笑わない。宇宙人や怪獣に対抗する組織はインターポール(むろん映画の中の、であるが)しかなく、ビルの1室のしょぼい部屋で会議をしている。

かつてこの国にはよりよい未来を信じる人々、優秀な科学者たち、高度な装備を誇る防衛軍がいた。また、世界中の国々が一致団結して宇宙人の侵略や小惑星の衝突に立ち向かった「国連」という巨大組織があった。

しかし、今はない。失われてしまった、築き上げてきた全てが。リーダーは情けなくも言う「我々にチタノザウルスを倒すスベはない・・・」 一方、敵の宇宙人は冷酷であり、科学者は憎悪と狂気に満ちていた。彼らがあやつるチ タノザウルスとメカゴジラには心がない、その暴力には迷いがなく、それゆえ強大だった。

それでもパっとしない人々はなんとか地道に働き、宇宙人の陰謀を調べ、怪獣の弱点を突き止め、戦いを始めた。そしてヘリコプター1台で、怪獣に立ち向かおうとしたのである。人々にはまだ脅威に立ち向かう勇気があった。

実は初代ゴジラも状況は似たようなものであった。戦後9年しか経っていない当時はさらに状況は悪かった。なす術のない自衛隊、貧弱な科学実験室、人々はほとんど素手同然でゴジラに立ち向かい、そして勝つために一つの命が失われたのだった。その後、ゴジラと取り巻く環境は、怪獣も多くなり、科学も進歩し、自衛隊の装備も良くなり、つまりは豊かになり、初代の犠牲は忘れられた。その間にゴジラは人間の味方になり、かつての誠実な科学者は人間に敵対する狂人と成り果てた。

一体のこの矛盾した変化にどう決着をつけるべきなのか、この映画の結末はそれに答えようとしたのだろう。

今また一つの命が失われ、皮肉なことに今度はゴジラのピンチを救ったのだった。確かに今までも人間がゴジラをフォローしたことはあったが、命まで投げ出したことはなかった。この時、初めて人間はゴジラより優位に立ったのだろう。

これまで、人間は、ゴシラよりタチの悪い怪獣や宇宙人をゴジラと戦わせた。そこにはある程度のシンパシーをゴジラに感じながらも、他人事のような態度だった。あわよくば共倒れしてくれればラッキー、と思っていたかもしれない。だがそうしているうちは、たとえゴジラがアイドル然とした風貌になっても、ゴジラを乗り越えたことにはならない。

ゴジラはその女性(ひと)の死を見届けると、夕陽に赤く染まった海に静かに去っていった。その姿は妙に小さく見えた。この時、人はゴジラを必要としなくなったのだ。何もかも失い、時にはとんでもない間違いを犯すが、人間は人間だけで危機を乗り越えられる・・・愛があれば・・・(号泣)

(評価:★5)

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