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[コメント] ルイーサ(2009/アルゼンチン=スペイン)

年齢は60歳ぐらいの老女。毎日決まった時間に起き、ぴっちり髪を撫でつけ判このように会社に出勤する。下界とは完全にシャットアウトしたかのような、孤独であることの悲しみさえ感じなくなった女である。
セント

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







そんな彼女に経済封鎖が敷かれる。葬儀会社とアルバイトの両方を前触れもなく首になる。貯金もなかったのか、肉親と同様愛していた飼い猫の死骸を入れておいた冷凍庫さえ電気を止められ、仕方なしにカネを稼ぎに下界へと出ることになる。

彼女は地下鉄で施しのような行為で稼ごうとするが、そんな生ぬるいやり方ではカネを稼げないことに気づく。そして何と驚くなかれ、乞食になってしまうのだ。何もそこまでと僕たち凡人は思ってしまうが、アルゼンチンの経済状態がかなり悪いのであろう(映画では説明されないが)、通常の仕事探しは最初から諦めているようなのである。

普通の乞食で稼ぎが悪いなら、盲目を装ったり松葉杖をついたりしてさらに稼ごうとする。そして意外とそれだけでも一日の生活費は足りるようなのである。乗客から施しの金を受けるということは、見たくもないものを見せられた人間は罪悪感に負けて小金を差し出す、ということなのだそうだ。まあ、小金を施すということはカネを出す方によかったというプラス感情が働くだろうからそれに対するペイだ、と思えば通常の商取引となんら変わらないとも言えるが、、。

彼女は貯めたカネで猫の埋葬をしようとしていたのだ。そのために新しい職業が必要だった。

会社を首になり、すでに年齢的にも、体力も気力もなくなっている吾人は今や日本全国捜すまでもなく、どこにでもいる。でも、乞食というのは僕は職業だとは思っていなかったので少々驚いた。全然、180度変わる生き方を強いているものでもないのだ。

地下鉄でホームレス状態の乞食の人をよく見かけるが、別に人種が違うわけでも、可哀想な人でも、まったく僕たちと違う人たちでも実は何でもないのかもしれない。明日は我が身なんていう考えもおかしいのだ。乞食はカネをもらう人たちに精神的功徳を与える職業なのだから、、。

彼女はこうして社会の最前線に佇む。閉ざしていた心は解かれ、年齢も離れたストリートバンドの若者たちと心が通い始めている。いいラストである。

僕はアルゼンチンの政治・経済状況がてんで分からないけれど、時々夢でいつも現れる彼女の夫と娘は何か、政変とか、権力によって強殺されたのかもしれないデスね。そうすると彼女の頑なに下界を閉ざしていた意味も分かってくる。ある意味メッセージ映画でもあるのかもしれない。でも、何か不思議な味わいのある秀作でした。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)サイモン64[*]

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