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[コメント] ろくでなし(1960/日)

少なくとも、私にとっては、和製ヌーヴェル・ヴァーグの傑作の一つに数えてます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 日本で作られた『狂った果実』(1956)がフランスの映画界に影響を与えてヌーヴェル・ヴァーグを作り出していったのは有名な話だが、そのフランスのヌーヴァル・ヴァーグの影響を最も強く受けたのは面白いことに日本映画界だった。特に松竹は松竹ヌーヴェル・ヴァーグと言われるほどに多くの作品を作り出していき、その内の何作かは見る機会があったのだが、その中で一番面白かったのは本作。同年に作られた大島渚の『青春残酷物語』(1960)の方が和製ヌーヴェル・ヴァーグを語る上では有名なはずだが、そちらの方には私はあまり心惹かれなかった。そこに登場する学生さん達の心が響いてこなかったが、多分これは現代とその時代を取り巻く空気そのものが違っているからだろう。当時は安保闘争華やかかりし時であり、大島はその空気に後押しされるかのように『青春残酷物語』を作り上げたのだが、その熱さは現代では望むべくもない。これを観る限りでは、当時の空気さえもよく分からないままだ。

 それに対し、本作に現される四人の学生の姿は、完全に現代とコミットしている。衣食足り、暇をもてあました人間が求めるものは刺激だった。それが当時流行っていた安保闘争ではなく、人間のあり方に対するものになった際、本作のような作品が生み出されていったのだろう。しかもこのテーマは今に至るも繰り返し邦画のテーマになっているので、吉田喜重の着眼点はまことに素晴らしかったと言えよう。

 火遊びは火を使うから危険なのであって、だからこそやりたくなる。そのような子供のような論理は、やがて本当に彼らを火が包み込んでしまう。ここに登場する四人は気の合う仲間であることは確かだが、それぞれに思惑がある。ブルジョアの俊夫と藤枝は盗むという行為自体を楽しむのだが、北島はそれに対し達観して何の興味もなく、森下だけが金を自分のものにすることを欲する。その違いがラストの悲劇へと転換することになる。遊びで始めたはずの行為は、やがてシャレにならない。その過程が大変緊張感溢れる描写に溢れており、後半になると目が離せなくなっていく。この緊張感は並じゃない。

 ラストはいかにも『勝手にしやがれ』(1959)だが、責任を持たぬ学生身分に安逸とした態度は、法的な制裁ではなく命そのものを代償とする。命を軽く見ようとする現代にこそ通じるテーマがここにはあった。

 キャラクタも又良し。特に全てに対し冷笑的な態度でありながら、最後の最後で意地を見せる北島役の津川雅彦が見事なはまり具合を見せている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)地平線のドーリア

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