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[コメント] アウトロー(1976/米)

一旦解体されてしまった西部劇というアメリカ神話を復興させようとした野心作。イーストウッドの視点が分かります。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 アメリカにおける西部劇とは特殊な位置づけを持つ。西部劇というのは、侵略の歴史しか持たないアメリカ人にとって、アメリカ国民としてのアイデンティティを確認するためのものであり、一種の神話と化していたのだ。これは一種、侵略の歴史の中、元ある以上に良いものを造り出してきた。と言う、一種の言い訳とも取られると思うのだが、60年代後半に起こったムーブメントにより、それは赤裸々に剥かれ、神話としての意味を剥奪されてしまったのだ。特にニューシネマは「今のアメリカはこれで良いのか?」という観点で作られているため、かつての古き良き時代のアメリカを一旦解体せしめた。その功績はハリウッド映画史においても特筆すべきものであるが、やはり神話無き映画作りを続けていくことは、やはりどこかストレスが溜まったのか?とも思わされる。

 本作はこれまでとは違ったアプローチではあるが、確かに解体後、それでも残っているアメリカの持つ神話性を強調した作品と言えるだろう。

 ここに登場する主人公のジョージはこれまでの西部劇とは一線を画している。彼にとって正義とは、他者のものではない。自分自身一人しか持つことのないものであった。それこそアウトローと呼ばれる所以。だが、それはヒーロー性を持ち始める。それは自分勝手ではあっても、大多数の願いを体現しているからだ。そしてそれはやがて終わりを迎える。愛という強い力によって。決して卑下する訳でもなければ、自分を偽ることもない。あるがままを受け入れつつ、間違ったことは反省する。それが出来るはずだ。

 これがイーストウッドの結論としてのアメリカ神話の形ではなかっただろうか?だからこそ、本作は受け入れられた。と思うのだが。西部劇にこだわりを持つイーストウッドだが、彼の考える西部劇とは、単なるガンアクションではなく、新興国アメリカの神話、あるいは建国物語としてのアイデンティティなのかも知れない。

 それで物語をシンプルにしつつ、奥行きを感じさせられるものに成り得た。幾多の西部劇の傑作はあるが、本作は新しい形での、やはり傑作と成り得た訳だ。

 不満と言えば、ソンドラ=ロックはやっぱり合わないな。身内びいきも大概にして欲しい所だ。

 ちなみに本作は当初共同で脚本を書いたカウフマンが監督だったが、イーストウッドと意見が合わず、イーストウッド自身が監督となって完成させたという。それが良い味を損なわなかった原動力だったのだろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ナム太郎[*]

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