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[コメント] プレイタイム(1967/仏)

これぞ表現主義の完成形
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 近代社会にやってきたタチ演じるユロが混乱を引き起こす話で、話自体は『ぼくの伯父さん』(1958)を拡大したような物語になっており、新味はあまりないが、遥かに派手なものになってるのが特徴。実は本作はフランス映画史上屈指の超大作であり、町一つを作ってしまったという。

 『ぼくの伯父さん』以来タチの作りは一貫しており、完全無機質な機械文明の中にあって、ほんの僅かに残る人間同士の関係とか花とかの有機物の香りを暖かい目で見守ると言う立場を取っている。殺伐になりがちな社会に真っ向から立ち向かっているのが最大特徴だが、それを単なる皮肉ではなく、どう工夫したら、それを楽しめるのか、その事を監督は考え続けていたように思える。

 本作の最大特徴とも言えるのは演出部分で、パリを模したこの町はキュビズムの傑作と言って良く、遠近法を完全に体現した見事な作りとなっている(これこそ『カリガリ博士』(1919)に代表されるドイツ表現主義の体現とも言えるだろう)。しかも画面の一つ一つにこれだけの人数やら機材を配しているのに、動きに全くの無駄がない。これをコントロールするにはもの凄い技量が必要で、タチがここまで培ってきたパントマイム型作品の決定版と言っても良かろう。

 しかし、公開当時本作は一部の評論家を除けば全く受けなかった(最大の擁護者はトリュフォー監督で、この映画を楽しむためには今までとは別の観方、別の聴き方が必要と主張していた)。やはり新味がなかったことと、微妙なさじ加減で展開するコメディ部分が受け入れられなかったことが原因だろう(結果的にタチ監督は本作で破産してしまった)。

 私自身、初見では本作はコメディのくせに笑えないし、単なる退屈な作品にしか思えなかったのだが(実は本作がタチの初体験作)、その後で『ぼくの伯父さん』(1958)を観て、ようやく本作の味というものを自分なりに理解出来た…でも、笑いの質で言えば、やっぱり『ぼくの伯父さん』の方がソリッドだったとは今でも思っている。

 映像演出だけは飛び抜けて良いので、映像の勉強をしてる人にとっては必見の作品とも言えよう。

(評価:★4)

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