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[コメント] ROMA/ローマ(2018/メキシコ=米)

テレビ番組として作ったにしては、大画面で観る快感に溢れた作品だった。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 キュアロン監督は常に意外性のある作品を世に出し、その度ごとに驚きをもって受け入れられてきた。これと言った得意な作風もないのだが、どんな作品であってもどれも質が高い。

 そして最新作もまた、とんでもないものを作ってくれた。

 プラットフォームとして選んだのは劇場映画ではなく、Netflixというテレビ映画。これは実際に作られた映画の配信でも知られるが、オリジナルの映画サイズのドラマも数多く作っており、低予算ながら質の高い作品もかなり多く作られている。ただ、基本的にテレビで観られることが前提のため、これまでの作品は映画として認識されてなかった。

 その流れを変えたのが本作となった。アカデミー賞をはじめとする数々の映画賞を総なめにして、Web映画の新世紀を作った(かもしれない)。

 それは本作の質が本当に高かったからに他ならない。

 これまでの作風とは全く異なり、本作はかなりの低予算作品。モノクロで、1970年のメキシコを舞台に、監督の幼少時代の出来事を描いた作品と言われている。主人公を家政婦のクレオに取り、女性たちの苦労の多い生活を描く作品となる。

 元はテレビサイズの作品だが、劇場でかかった映画サイズとなると、演出がとてもエッジ利いてて凄く迫ってくる。更に静かな作品なので、音響が良いと、ぐっと迫ってくるものもある。

 作品としては、昔のNHKの朝ドラっぽい雰囲気で、運命に翻弄される一人の女性が逞しく生きるという、まさにメキシコ版の「おしん」っぽさがある。

 文明社会にあっては、表舞台で活躍するのは男性で、女性はどうしても弱い立場にある。それだけでなく、力の強い男は暴力で女性を従わせる事もあるため、女性は泣き寝入りせずにはいられないということも多い。

 そんな社会構造を変えるためにこそ戦後の社会運動があって、今はだいぶ社会状況も変化している。ただ、本作の舞台となった50年前ほどは運動も途上で肝心なところで男女の格差が垣間見える。

 メキシコにあっても状況は似たようなもの。女性の地位向上は少しは進んで男女交際ではほぼ対等な立場にあるような感じだが、子供が出来てしまって逃げる男に責任を取らせることはできないし、夫が浮気をしても妻はそれを受け入れるしかない。法律的にそれを咎めることが出来たとしても、なにもかも男に有利になってしまい、責任を取らずに逃げてしまうこともある。結果として理不尽な行為を受け入れるしかないのが女性の立場である。

 しかし女性は泣いてばかりではない。そんな逆境も受け入れながら、逞しく生きていく。悲しみを受け入れながら乗り越えていく、そんな女性賛歌である。

 ほんとこれじっくり観れば観るほど涙を誘う出来だし、改めて女性に対して自分がどんな行為をしてきたかを問われ続けてる感じがして居心地も悪かった。とにかく身に迫ってくる。

 そんな風に思える作りは脚本の良さもあるが、何せ突出した演出の素晴らしさあってのこと。

 本作の視点は本来的にクレオのものだが、それだけでなく、雇い主のソフィアの視点もあるし、キュアロン監督自身が経験したこともあって、子供の視点もある。様々な視点で女性というものを見つめているため、多角的に女性の立場というものを見せつけられるため、演出的にもかなり凝ったものだし、それに結構救いのない話を描いているにもかかわらず、決して暗くはならないよう、上手く配慮された演出ですっきりしてる。

 絶望的な話を絶望的に暗く描くのは簡単だが、希望を感じさせるように作るのは大変。それがきちんと出来ているのがキュアロンの凄いところだ。

 なんだかフェリーニっぽさもあるが、色の工夫でカラーに対応しようとしていたフェリーニに対して、逆に色彩を抑えることでそれっぽくしているのが面白い。

 後はもちろん、本作はメキシコの歴史にちゃんとフィックスしているというところも評価高い。特に1970年付近だと、日本でも学生運動が盛んだったが、これは世界中で起こっていた。その渦中にあって体験しているというのが大きい。確かに監督自身は幼かったかもしれないが、実際のメキシコで起こった学生運動とメキシコシティの不穏さをきちんと画面に込められたのは、その空気感というものを肌で感じていたからかもしれない。いずれにせよ監督の強い思い入れがリアリティとなってる。

(評価:★5)

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