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[コメント] 若者のすべて(1960/仏=伊)

ネオ・リアリスモが“今”を観る作品であるとするなら、ヴィスコンティ監督作品の場合、“過去”“現在”“未来”全てを包括しているかのよう。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 この物語はかなり皮肉で悲惨な物語。三男のドロン演じるロッコと次男のサルヴァトーリ演じるシモーネの物語が主軸となるが、この二人の物語はかなり悲惨。ロッコは善意が人間の形を取ったような存在で、まるで『カラマーゾフの兄弟』のアリョーシャみたいな存在。彼はあらゆる能力が高く、何をやっても人並み以上にこなしてしまうが、一つだけ“運”が悪いという問題がある。彼が善意でなすことはことごとく裏目に出、それでも人間を愛することを止めない。一方彼と対比されるシモーネは、とかく自分勝手で、楽な方楽な方へと流れていく。そう言う人間にとって一番腹が立つのは、実は善意であったりする。結果としてロッコをいじめ続けることになる。この二人の対比は観ていてきつい話で、善意を持つ事が逆に人を傷つけていき、やがてシャレにならない事態を招いてしまう。善意持つ人間こそが悲惨さを呼び込むとは、なんとも皮肉な話。

 これが話のメインなのだが、実はこの物語はそれだけではない。長男と四男、そして母の話も同時にしっかり描写される。話のメインではないとしても、この三者の物語も興味深い。

 イタリアは欧米の中では特に家族の結束が強い国民とされている。特に母は一家をとりまとめ、厳しくしつけることでばらばらになりそうな家族を強引に一つにまとめていく。ここでの母像は、バラバラになりそうな息子達を叱咤して兄弟の結束を高める、いわば肝っ玉母さん的な描写になっている。だが、長男と四男は、ミラノという都会で、自分の生活を営み始める。彼らにとって、時代はすでに移り変わっているのだ。そこで母の持つ古い価値観とのぶつかり合いが描かれていく。しかしその中で新しい家族のあり方とは?と言うテーマが出されていく。

 この作品に答えはない。だが、時代は移り変わろうと、やはり重要なのは家族を作り上げていくことである。という事を語っているようだ。

 世界中あらゆるところで家族とは常には再生と崩壊を繰り返すことになる。当時の“今”の家族を見ながら、“未来”を見つめようとしている。カサヴェテスの『アメリカの影』も同系列に思える。

 ヴィスコンティが以降このテーマを推し進めることなかったのは残念なことだが、家族の物語はまだまだ映画の主軸となっている。

(評価:★4)

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