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[コメント] ダーティハリー(1971/米)

山田康雄の声で「泣けるぜ」というのは実際に結構真似しました。どうしても声はそれしか思い浮かびません。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 この年、これまでの刑事もの作品を覆す作品が二つ登場した。一つは『フレンチ・コネクション』であり、そしてもう一つが本作である。今なお作られ続けている刑事もの作品は押し並べてこの二作の影響を受けてないものはないと言われるほどの作品である(尤も、そのルーツを探ると両作品とも『ブリット』(1968)の影響が強いと思われるが)。どちらの作品も警察組織の中では浮いた存在である、正義を体現したヒーローを主人公としているのが特徴で、一般の社会生活が出来そうにないような熱いキャラクタが特徴。折りしもニュー・シネマの時代。決して優等生ではない、体制に対する反発者の姿は時代そのものが求めていたと言っても過言ではなかろう。

 ただし、この二作はかなり共通性があるものの、1971年のアカデミー賞では明暗を分けた。『フレンチ・コネクション』は作品賞、主演男優賞を含め5つのオスカーを得たのに対し、本作は全くノミネートさえされなかった。ただしそれを当時のアカデミー会員の不明と見る気はない。当時のアカデミー好みという点ではこの二作に大きな隔たりがあったから。

 『フレンチ・コネクション』は確執や横やりなどの妨害がありつつも、警察組織という中にあって奮闘するハックマンの好演があってこそだった。ハックマン演じるポパイは確かにどこかエキセントリックな部分がある正義の味方ではあったが、警察組織そのものを逸脱はしてなかったのだ。それがリアリティと映ったのだろう。

 対して本作の主人公イーストウッド演じる主人公ハリーは、そう言う意味では完全に組織を逸脱している。オープニングのシーンでホットドッグもぐもぐやりながら町中でマグナムぶっ放すシーンだけで彼の逸脱ぶりがよく分かろうというもの。ここにはリアリティを考えてませんよ。というメッセージも込められていたのかもしれない。捜査に関しても平気で犯人に銃をぶっ放すのみならず、拷問にかけることも厭うていない。それに結局の話、確かに目新しさを感じさせてくれるものの、ハリーは現代に蘇った西部劇のヒーローそのものであり、その本質を見ている人には、これは決して新しい物語ではないことがよく分かったはず…確かにこれではアカデミーの覚えは悪かっただろう。題に『ダーティ』と付けたのも、当時としては「所詮はB級作品」と思われる要因となったかもしれない。

 技術性や芸術性と目新しさが巧く組み合わさった『フレンチ・コネクション』に対し、本作は目新しさしか無かったと言うのが弱みだったかもしれない。しかし、娯楽性という意味においては、本作の方がやはり上を言っていたのは事実。仮にもっと前の時代であれば、ポパイよりもハリーの方が共感を持って迎えられただろうが、その時代ではこの暴力描写は出来なかっただろう。確かに賞には縁が無かったとしても、このダーティぶりが後の刑事物に与えた影響は計り知れない。

 それに事実として、日本でのテレビ放映では、『フレンチ・コネクション』よりも遙かに本作の方が多いはずだ。それはやはりイーストウッドの格好良さというものを全面に押し出した結果であろう。ハリーの仕草はつい真似したくなるほどに格好良いのだ。

 本作はまさにイーストウッドのはまり役で、私の世代だと、“イーストウッドと言えばハリー”と言った感じなのだが、そもそもはハリー役はフランク=シナトラが演じるはずだったらしい。ただシナトラは丁度手術後でアクションは無理と言うことがわかり、今度はニューマンに話が行ったが、だらしない刑事役と聞いたニューマンにも断られてしまった。それでイーストウッドに回ってきた。イーストウッドは特に敬愛するシーゲル監督作品とあって本作にかけた情熱は半端でなく(二階も断られた役を敢えて受けたのは監督がシーゲルだからとインタビューで本人も言っていた)、キャラハンの性格を徹底的に書き換えさせてこのようなキャラクタを作り上げた。それまでの自分自身を投影したかのようなハリーの描写は素晴らしいの一言。更にスタントマンを立てず全てのアクションを自ら行ってもいる。

 更に本作ではいくつかのパートではシーゲル監督はイーストウッドに好きに演じさせたという。それでイーストウッドはのびのびと演技をし、アドリブが巧くはまっている。そしてこれを通してイーストウッドは自らも監督業へと乗り出していくことになる(実際に本作にも部分的にイーストウッドが監督した場所がある)。

(評価:★4)

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