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[コメント] 殺人者はライフルを持っている!(1968/米)

名優ボリス=カーロフの遺作として、最も彼らしい作品だったとも言えます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作はロジャー=コーマン製作による作品で、これを長く様々な監督の元で助監督を務めていたボグダノヴィチに任せたが、ボグダノヴィチはコーマンの期待とは違い、1966年に起こったテキサスのタワー狙撃者チャールズ=ウィットマンの事件を元に独自のアレンジを加えて傑作に仕上げる。

 1968年。この年は国内外で様々な良質な映画が作られていた年である。この年はオイル・ショックで世界中が驚愕し、科学万能時代が来ることを疑わなかった者達が、頬を張られた気分になった年である。それを表すかのように、科学そのものに警鐘を与える大作として、アメリカでは『2001年宇宙の旅』及び『猿の惑星』が封切られていた。大作続きの映画の中にひょっこりとこんな作品が入っていたのは微笑ましいと同時に、映画の作り方そのものを問う作品としても記憶に残る。アメリカ製のヌーヴェル・ヴァーグ作品とも言われる。

 これはいわゆるサイコ作品に分類されるものだと思われるが、構成が面白い。何もかも与えられているにも係わらず、その中で内なる衝動に耐えきれずにライフル殺人に走る青年。それと並行して大物怪奇映画スター(ボリス=カーロフと言えば、なんと言ってもフランケンシュタイン役で有名だが、役中の彼の姓が面白い。オーロック。これは『フランケンシュタイン』(1931)と双璧を為す怪奇映画の雄、吸血鬼映画の傑作『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)の伯爵の名字だ)が自分の老いに耐えられず、引退を決意するところを延々と描いている。

 確かに決して充分な金をかけた作品とは言えない。だが、その安っぽさの中に、本当のアメリカという国の恐怖が眠っていたのかも知れない。誰でも手軽に銃を手に入れることが出来る社会。全てを与えられ、家族も揃っていて、何一つ不自由のないはずの青年がロックのビートに乗せ、人を殺していく。その凶状を目の当たりにしたホラー役者バイロンの語る「私の時代は終わった。現実が追いついてしまった」。それはまさに当時のアメリカという国そのものを指しているだろう。確かに安っぽい作品かも知れないし、演出も決して上手いとは言えない。だが、その奥にあるメッセージ性は今も尚健在だ。

 尚、本作でカーロフが出演している映画はコーマンが監督した『古城の亡霊』で、本作がホラー作品と聞いたコーマンはこの未使用フィルムの使用も認めたが、結局は使用されずに終わったという。

(評価:★4)

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