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[コメント] 鉄塔武蔵野線(1997/日)

自分が子供だった頃、そのテリトリーは狭かった。自転車を操れるようになり隣の町を初めて訪れた時のアノ高揚感を私は決して忘れない。
sawa:38

私の幼い子供たちのテリトリーは、未だ驚くほど狭い。この新興住宅地の一角の路地だけである。だが先日、300メートルほど離れたコンビニへ勇気を出して駄菓子を買いに行ったらしい。帰ってきた彼等は得意満面の笑顔だった。そう、私のアノ頃とそっくりだ。

私は幼い頃、よく迷子になった。浅草の花やしきの辺りだった。通り過ぎる大人たちを見上げ、どちらへ進めばよいのか逡巡し、絶望感に襲われた。先日、同じ場所を訪れた時、車も通れないほどの小さな十字路だったことに気づき改めて驚いた。

今では何をするにも車で行動し、私のテリトリーは拡がっている。遠く海を隔てた地すらテリトリーになった。

だが、少年時代の彼等には隣町までの鉄塔探しは「冒険」だったろう。さらに田を抜け、川を渡っての冒険は前人未到の「大冒険」だったはずだ。

自分が子供だった頃の視線を思い返しながら鑑賞してみると、これはとんでもない壮大なスケールの冒険行であることに気づく。作品内でのちょっとしたトラブル・ハプニングは大人になった私からはたいした事ではないが、彼等にしてみれば一生トラウマに成りかねない事件の連続だろう。

自分が経験してきたことだから、彼等の視線に同化することが出来た。通常なら何でもないエピソードが怖かった。大人に怒られ、トラックに追いかけられ、川で転び、頬を伝う汗は流れるに任せる。

だからこの作品、怖かった。ドキドキした。懐かしかった。そして羨ましかった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)甘崎庵[*] ぽんしゅう[*]

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