解放された直後の描写、オ・デスが非社会的なまでに何十人も相手に強靭な暴力を発揮したり、オとミドが共通して「蟻」を感じていた部分は、社会との疎外感を表していて良かったと思う。蟻は、（2人が惹かれ合ったように）孤独であること、（蟻を踏んでしまうように）知らず知らずうちに相手（本作ではイ・ウジン）を傷つけてしまうことの象徴で、これも催眠術に仕込まれた暗示なのでしょう（ミドの手が女であるにもかかわらず寿司職人に適した「冷たい」理由はよく判らなかったが・・・）。

しかし、2人の出会い以降において、（髪型以外は）環境にすんなりと順応していくオ・デスその人と、周囲の環境設定はどうも馴染めない。　彼は１５年間、唯一ＴＶだけには接していたが、それだけで浦島太郎状態にならずに社会に順応できたでしょうか？　韓国のこの１５年が激動なのは周知の通りで、監禁ビジネスが安定して継続される設定にも無理がある気がする。イ・ウジンの執念がその監禁ビジネスの拠点を常に安定に確保してきたと言うことなのかもしれないが、そもそもイのような所謂サイコタイプの人間がボロも出ずにあそこまでの組織の大物になり得た背景もよく判らない。

イが心臓病との設定も唐突過ぎるようである。高校の卒業アルバムに自殺した女性の顔を切り取ってまでして載せるというのもちょっと考えがたい（７月５日死亡であれば差し替えは十分に効くだろう）。

更に言うと、１５年間監禁とその解放の理由を、姉との近親相姦を広められ姉を失ったことへの逆恨みとするところまではいいのだが、その復讐の描写は極めて計画的、且つ具体的すぎる嫌いがある。　オ・デスの妻を殺害した上でオにその罪を着せ、幼な娘を保護し成長してからオ・デスと関係を持たせる復讐劇。　しかもその遠大且つ困難な計画の一切が、自らが自殺するまで世間に露見することなく完遂される。　極めて現実離れしていながら、有り得ないほどに筋書きがしっかりしていて気味が悪い。　韓国のこの15年を考えると、尚更。

それとも、イ・ウジンの計画は、前大統領が退任後ほぼ必ず逮捕される韓国のカオスの歴史と世俗を超越していたということか。　この意味で犯人の不気味さを印象付けた点では成功しているだろう。　それにしても時代と世俗の具体的な描写に欠け、アンバランスな印象は残る。　ラストでこそ、これからの2人に含みを持たせていたようだけど、全体として抽象的、観念的な要素を盛り込んだほうが良かったように思える。