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[コメント] ジョゼと虎と魚たち(2003/日)

どうしてももう一回観たいけど、もうちょっと経ってから、違う心境の時に観ようと思う映画。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「ジョゼと虎と魚たち」という一風変わった邦題に公開前から興味があった。内容もよく知らず、題だけで興味を惹かれる映画って滅多になければ、巷で評判になったときに「出遅れた〜」と我ながら無意味な後悔をしたのも珍しい。 そしてようやく鑑賞。妻夫木聡のナレーションと写真、そしてイラストを用いたオープニング。「これ、面白いよ!」と、オープニングだけでもう満足してしまいました。

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主人公恒夫のキャラ、私は大好きです。自分にはないものをいっぱい持っていて憧れます。身近に学生時代、ラグビー部主将だった友人がいるのですが、このスケベぶり、飄々として頼れるところ、熱いところ、笑顔など、主人公のキャラと同じ匂いがします。これはまさにラガーマンの匂いだと私は思います。

<<堰を切ったように流れ出た最後の涙>>

そう、恒夫は紛れもなくラガーマンなのです。それも足の故障で無念の引退となったラガーマンなのです。彼女(上野樹里)はそのことに触れますが、「考えるの面倒だから・・・」と恒夫は軽くあしらってしまいます。深く悩まない(悩みを表に出さない)のもラガーマンの一面で、彼のこのスタンスが、最後の止まらぬ涙となって現れたのだと思います。

巷では恒夫のことを雀荘でバイトしている学生として紹介しているようですが、このバイトは知人に紹介された程度のもので、深い意味なんてないはずです。彼のマージャン牌の握りは素人であることを演技?しているかのようにも見えました。言い換えると、彼の姿は、店から浮いた存在のようにも見えました。国士無双というバラバラのあがり役は、ラグビーを失った恒夫の寄る辺のない心境を象徴していたのかもしれません。

<<壊れ物>>

そして、ジョゼ。祖母の「壊れ物」の言葉。本作は全編にわたって身障者というテーマを前面に押し出していないものの、この言葉だけは力が入っていたように思えます。これは、祖母のジョゼに対してではなく、ジョゼを守る為に「社会」に釘を刺した言葉なのだろう。祖母とジョゼの間には、お互いを思いやる確かな家庭が形成されていた。

このジョゼと恒夫の付き合いは、恒夫がご飯と玉子焼きの旨さに釣られたのが切っ掛けのようでもありますが、それは巧みに準備された口実とでも言うべきで、「足」というキーワードはやはり欠かせないと思います。症状の違いこそあれ、足に障害があるのは2人の共通点です。ジョゼには足に障害を持ちながらも、椅子から飛び降りるなど、しっかりと自立した逞しい一面を感じます。不自由ながらも「地に足が付いている」のです。しかし、彼女は外への一歩を踏み切る勇気がありませんでした。

足を不自由にするまでには至っていないまでも、ラグビーを失ってから「他に寄る辺のない」恒夫の足をジョゼのもとに向かわせたのは、彼女への同情心より、むしろそこだと思います。お互い次の一歩を必要としていたのでしょう。おそらく、ジョゼは恒夫のラグビーと足のことは知らないでしょうが、「旨い!」と飯を食べ、それを「当たり前や!」と跳ね除ける、そんな2人の会話にお互いの気遣いを感じ取ることが出来ます。

<<おまえ何やってるんだよ!!>>

そして、教科書とSM本の金谷隆司(でしたっけ?)。彼もキーマンです。ジョゼにとって社会との接点に当たる彼が、自分と同じ大学でしかもラグビー部で裸踊りしている。それは、まさに恒夫が歩んできた道なのです。その彼を殴ったのは、なにも彼がSM趣味だからではなく(笑)、どうすればいいのか判らなくなった自分を殴ったようなものです。これまで何事も深く考えないできた恒夫が、ジョゼとの出会いにより、彼女への気持ちについて、考え悩むようになってきた兆候ともいえるでしょう。

やがて、ジョゼの全てに接した恒夫はジョゼと同棲を始めます。ジョゼは、彼の引越し手伝いに来た金谷隆司を睨み、恒夫には笑みかけます。この描写は、ジョゼも他人に対して自己表現するようになったことを示してしたと言えそうです。

ジョゼは外の世界と触れ合うようになりました。恒夫は悩むことを知りました。

<<2人は変わり始めたのです>>

(評価:★5)

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