生まれた時に寅と似ていると言われた満男。成長して寅の役を引き受けると思われたが、満男に決定的に欠けているものがある。それははぐれものの自覚である。寅のいう渡世人の矜持が満男にはまるでない。無自覚で恵まれた満男が「つらいよ」ということはない。

夏木マリと後藤久美子が親子とは思えない。寺尾聡と夏木マリが夫婦とは思えない。寅と宮崎美子のあれやこれやを見たいと思うがそれも実現しない。「ほんによか家族たいね」と旅館の女中にいわしているが、所詮はフェイク家族の人情ごっこを見せられている感じになる。唯一本物らしいのは、一貫して変らないさくらの兄に対する気持ちであるが、これが母親と恋人を併せ持った歪んだものなのは明らかである。風にはためく洗濯物のように山田洋次の心の奥深くにある願望であろうか。そしてそれを支持する人々が多いということなのか。謎である。