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[コメント] 借りぐらしのアリエッティ(2010/日)

もののけ姫』では共存不可能のネガティブさを描いたジブリが、この『借りぐらしのアリエッティ』では共存不可能のポジティブさを描き、子供たちの想像力を後押ししようとしてくれている気がします。少なくとも私は脳ミソのどこかが非常に活発になった。(子供じゃないのに!)
づん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







小さい頃、大好きだった本があります。「地下室からのふしぎな旅」という本で、この物語にはピポという小人の妖精が出てきます。このピポが主人公の女の子の隣を飛び跳ねながら歩くシーンがあります。そこでピポは女の子に話しかけているのですが、飛び跳ねながら歩いているため、ピポの声が女の子の耳元で大きく響いたり急に遠のいたりするという描写がありました。小人の小ささを想像させる素晴らしい描写で、幼いながらも感動した覚えがあります。

この『借りぐらしのアリエッティ』でも音の描写が素晴らしいと思いました。小人の耳から聞いた時の音、耳の奥で音が響くような、普段私たちが聞きなれた生活音が得体の知れない不気味な音のように響くあの感覚。まるで自分も小さくなってその場にいるような臨場感。特にアリエッティが翔の肩に乗って母親を探しにいくあのシーン。翔の一歩から生まれるぐわん!という音と鋭く切る風の音。臨場感と共に素晴らしい高揚感すら感じました。

また、水の描き方も素晴らしいと思いました。ポットから注がれるハーブティー、アリエッティの体についた雨のしずく。そしてアリエッティの目からこぼれる、まさに大粒の涙。それらは私たちの考える液体ではなく、恐らく水分子レベルで描かれたであろう、少し固形じみた水。この着眼点が面白い。

ストーリーの紡ぎ方としては少し物足りなさを感じる部分があったし(小人の男性陣がクライマックスでは鳴りを潜めてしまうところとか)、翔が突然残酷な言葉を発するシーンの突拍子のなさも気になったし、ところどころに綻びは感じつつも、でもやっぱり面白い。

それは先に書いた描写力や着眼点の面白さに加えて、飛び抜けた妄想力なんだと思います。幼い頃にいつも感じていた、見えないモノへの憧れ。その存在の不確かさ。それらは見えちゃいけないし、存在が確かになってはいけないモノ。その危うさをこの物語は妄想力を持って最後まで守りきってくれた事が嬉しい。

米林監督、いつか「地下室からのふしぎな旅」を映画化してくれないかなー。

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10.07.21記(10.07.19劇場鑑賞)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Orpheus カルヤ[*] 3819695[*] IN4MATION[*]

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