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[コメント] スープとイデオロギー(2021/韓国=日)

兄たちを北朝鮮へ送り出し、総連幹部の活動家だった父を支え、ひとり暮らしの老女となってもなを、借金をしてまで北朝鮮の息子や孫たちに仕送りをする母の(北への)思いが分からない。娘である監督が流した"涙"は、彼女の怒りにも似た疑義の氷解の証しなのだろう。
ぽんしゅう

祖国である韓国に裏切られ、逃げるように大阪に戻り、日本という外地が寄る辺であるはずもなく、夫と共に母が最後の最後に希望を託した先が北朝鮮だったのだ。その後、帰属するべき北朝鮮が抱えた数々の矛盾を自らの家族の崩壊をもって知ることになる。だが最後の選択だった北朝鮮を否定することは、夫婦にとって自身のアイデンティティを否定することにほかならない。帰還した息子たち家族の幸せのために仕送りを続けることこそが、決して自分を(すなわち北を)「否定しない」という自らに課した義務だったのだろう。

そんな母の"頑なさ"の原点が「済州島 4・3事件」で体験した絶望にあったのではないかとヤン・ヨンヒは察する。母が語らなかたこと、それは語りたくなかったことであり、語れなかったことでもあったのだろう。母への苛立ちと母の悲しみが一本の線で結ばれたとき、ヤン・ヨンヒは北朝鮮と韓国と日本と世界、そして自分がつながった思いがしたのではないだろうか。

Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン』(2005) 『愛しきソナ』(2009)に続くドキュメンタリー3部作、さらに劇映画『かぞくのくに』(2012)も含めた北朝鮮(あるいは朝鮮半島の歴史)に翻弄された家族と私(ヤン・ヨンヒ監督)の(ひとまず)の完結編に本作はなっているようです。全作品にお付き合いしてきた者としてもひとまずほっとしています「監督、きつかったですね。お疲れさまでした」

余談です。もし機会があれば、NHKが制作した監督へのインタビュードキュメンタリー番組 こころの時代「オモニの島 わたしの故郷〜映画監督・ヤンヨンヒ」(2022.12 Eテレ放送)と、監督の韓国での活動を交えて再構成した ETV特集「同名タイトル」(2023.1 放送)の2本も併せてご覧になることをお勧めします。監督にとっての「映画とは?」が痛いほど理解できます。

(評価:★4)

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