コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] あなたの顔の前に(2021/韓国)

これから起きることに意味を見出さない。過ぎ去ったことに意味を求めない。それが今するべきことのすべて。希望も郷愁も封印し目の前のものがすべてだと思い込もうとする。そんな彼女はうまそに煙草をくゆらす。喫煙は自らに許した「今」の存在を確認するための赦し。
ぽんしゅう

心に留まるシーン(エピソード)がたくさんある。特に私の印象に残ったものを3つだけ上げます。

サンオク(イ・ヘヨン)がブラウスの裾に染みを付けてしまいさかんに気にするエピソードがある。そのあと、映画監督(クォン・ヘヒョ)との会食の際にブラウスの裾をさりげなく結んで“着こなし”のように見せて染みを隠しているカット(二人で煙草を吸うシーン)が出てくる。ホン・サンスの演出だろうか。イ・ヘヨンのアイディアだろうか。サンオクの繊細さと生真面目さを感じさせる可愛らしい演出だった。

酒がすすむにつれ、ホン・サンス定番の泥酔のぐだぐだシーンへ行き着いて、そんなサンオクのタガが外れる。映画監督(クォン・ヘヒョ)の申し出でに挑発的な売り言葉。そして咄嗟の買い言葉。何がホントかウソか・・・。どうしようもなく人間らしいだらしなさ、が露呈する。店を出た二人が傘を差し無言で路地を抜けて行く後姿から、いわく言い難い後悔と羞恥のようなものが立ち上がる。

そして妹のジョンオク(チョ・ユニ)が見たという“好い夢”を、自らの白昼夢のような酔狂に重ね、その不覚を高笑いで紛らわせる姉サンオクの諦念と寂寥。朝が明けまた「今」が始まるのだ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。