[コメント] 林檎とポラロイド(2020/ギリシャ=ポーランド=スロベニア)
記憶を失った孤独な男の顛末がユーモアと哀惜をもって描かれる。ところが観終わって何だか心がざわつく。さりげなくて見落としがちなのだが、男の住む国(社会)では記憶を失くした者は同時に自己決定権も失う(奪われる)という恐ろしい裏テーマが潜んでるからだろう。
まず、男(アリス・セルヴェタリス)が記憶を失った理由がよく分からない。冒頭に語られるこの国(社会)に蔓延する謎の病気のせいなのだろうか。背後に何やら国家的な謀略が潜んでいるような気配もするのだが。それとも、結末で示唆される出来事が本当の理由なのだろうか。
そもそも、新たに人の記憶を作ろうとする善意の他者ってなんなんだ。この"作り変え”という行為を「個人」ではなく「社会」の記憶というレベルに置き換えてみる。するとほら、自分たちにとって都合の悪い社会的記憶(つまり歴史)を作り変えてしまおうとする権威主義者なんて、そこらじゅうにゴロゴロいるではないか。
やっぱりこの映画、ハッピーエンド???・・・なのかどうか、よく分からないのだ。
クリストス・ニク監督は『ロブスター』や『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』のヨルゴス・ランティモスのスタッフ(助監督)だったそうだ。さもありなんの不穏さを秘めた奇妙な語り口の映画だった。
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