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[コメント] 鉄人28号(2004/日)

今、少年達に受け継がれるべきものは、平和の為のお題目などではない。過去から蓄えられた知識と、巧たちの技、そして自分の身をもって知る肉体の痛みなのだ。マッチョ逆三角形西洋体型ロボットと愚直に対峙する鉄人28号のあんこ体型の図太く凛々しいこと。
ぽんしゅう

人間が生んだ科学の成果は、全てそれを操る人間の思想に返される。人間が利害の中を生きる動物である限り、戦うことは避けられないかも知れない。戦う者の最低限の良心は破壊しないことだろう。それが利害を超えて互いを尊重し合うということであり、そのために人間は知識と技と肉体の痛みを知っている必要があるのだ。そんな、原作者横山光輝の思想はしっかりと伝わってきた。

惜しむらくは、平成を生きる少年少女として設定しなおされた正太郎(池松壮亮)はじめ天才少女真美(蒼井優)らに、現代の子供達がリアルタイムで感じているであろう閉塞感が投影しきれなかったことだろう。もしも、父親からの疎外感や両親の期待に対する反発という正太郎や真美の苦悩が、一般論ではなく同時代的な子供達の息苦しさとしてもっと丁寧に描かれていれば、今を生きなければならない子供と大人達へのひとつの指針が示せたかもしれない。

子供を繊細に撮ることができる富樫森監督なら、それが可能なはずだった。今ひとつ踏み込んで「現在という時代」そのものへアプローチして欲しかった。傑作への可能性を秘めた佳作として記憶される作品である。

最後に、ここ数年の香川照之の日本映画や中国映画への貢献度には素晴らしいものがある。彼が出演した作品は間違いなく彼の存在と演技によって底上げされている。宮殿風あじとで見せた、息子を喪い狂気を帯びた宅見(香川照之)のレイラ(河原亜矢子)と対比された立ち姿のなんと不気味で悲しげなこと。美しく印象的なショットであった。

(評価:★3)

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