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[コメント] 渇水(2022/日)

底の浅い同情というのは、とんでもなく残酷なものだ。 まさに、「同情するなら金をくれ!」ってことなのだ。
Shrewd Fellow

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







こういう映画を見て、社会的な問題提起とかそういうことを感じなくちゃいけないのだろうけど、ただの水道局の職員にできることは限られている。

非情なように見えるかもしれないし、そういう意図をもって岩切の演出をしているのだろうけど、それが彼の仕事なのだから、決まりに従って止水を行うのは全然間違ったことではない。水道なんて、そんなに簡単に止まるものではないし、水道局の職員が言うように「水はタダじゃない」のだ。水道料金を滞納したことがない私のような善良な市民からすれば、とんでもなく図々しい奴らなのだ。中にはほんとうにどうにもならない事情を抱えている人たちもいるかもしれないが、それは水道局の職員がどうにかできる問題ではない。

水道代を滞納するほどに生活苦なのであれば生活保護、お金がありそうなのに払わないような場合は差し押さえ、そして、ひとり親家庭で親がいないような場合は児童相談所。冷たいようだけど、個人的になんとかしようとするのは、はっきり言うと「底の浅い同情心」でしかない。家族じゃないなら、個人的にどうにかできるようなことは何もないのだ。

主人公の岩切には、どうやら親との葛藤がありそうだ。だから、きっとあの姉妹に、なにか感じるものがあったんだろうけど、あえて距離をおこうとしている。他人にはできることはなにもないということを、彼は知っているからなんだろう。「アイスでも買って、寄ってみますか?」という同僚の木田に、「それでどうするんだよ? おなかがすいてたら飯を食わしてやるのか?次も、次もか?」と言う岩切は、冷たい人のように見えて、根っこのところはあったかい人間なのだ。止水するときも、「できる限り、水をためておいてやれ」と言っている。それは、「姉妹のために、水道局の職員にできること」を最大限しているのだ。いい人なのだ。

世の中には、姉妹のとなりのおばちゃんのように親切ごかしに近づいて、家の様子を見に行ったり、姉妹のことを気遣っている風をよそおって、「かわいそうだと思ってる」だの、「なんでも相談してね」だのと言ってくる人たちがいっぱいいる。お姉ちゃんはちゃんとそれがわかっているようだ。母親の悪口を妹に聞かせたくない、その上、父親も実は出ていっちゃって戻ってくることはない、なんてことは、絶対に妹には聞かせたくない!というお姉ちゃんは、明らかに今話題の「ヤングケアラー」だ。彼女は、現実の母親よりも、「母親」だ。だから、おばちゃんの話をやめさせたくて、貴重な水でもおばちゃんにぶっかける。誰かのことを「かわいそう」だなんていう人は残酷な人なのだ。

わかっていたはずの岩切が結局はキレて、水道局の職員がやってないけないことをしでかすのよね、水道局の職員だからこそできる反乱(笑)。 で、その反乱のあと、急に家族との確執がなくなってみたりするのが、とってつけたような感じがしたし、そもそも生田斗真くんが、そういう人に見えないってのが痛い。 門脇麦ちゃんも、違うベクトルでいい母親になろうとする女をがんばって演じているようだけど、どうも合ってないように思った。『誰も知らない』のYOUちゃんは、チャラチャラしてても「なんとなく子どもがいる」空気感を出していたけど、そういう雰囲気が身についていてくれたらよかった。

でも、その反乱のおかげで、あの姉妹が施設に入れることになったのはよかったとも言える。ここからは、あのお姉ちゃんの「自由で、限りない子ども時代」が取り戻せることを願う。あ、岩切の「フツーの家庭生活」ってヤツもね(笑)

(評価:★3)

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