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[コメント] バットマン ビギンズ(2005/米)

とっても幼くて脆い心を持った”ぼんぼん”のお話。
Ryu-Zen

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







悪党のギャングが放った言葉。

「お前は目の前で両親を殺されて世間の残酷さを知った気でいる。だが実際には何も知らん」。 彼はそこで、自分が大人になった気でいたことを思い知らされる。「ボク、どうしようもないガキだ...」。いくら大きくなっても、自分は子供のように幼稚で弱い心のまんまなのだ。上辺だけの大人である彼は、あがき始める。旅をし、悪事に手を染め、肉体を鍛え、精神を追い詰める。それでも彼の心は、手探りするしかないような深い闇の底に落ちている。天から挿す光への道は、遠く険しい。闇から自分を救ってくれた父はもういない・・・。

青年、とりわけ親に深い愛情を注がれて大事に育てられた『男の子』が感じる”もどかしさ”が大変リアルに描かれており、感服する。世間知らずゆえの甘さ。いつまでも幼い自分の対する歯がゆい思い。大人になりたい、強くなりたい、立派になりたい...。なのに、どうして自分はドン底に落ちるんだろう...。そんな男の子の”幼稚であることの苦悩”を緻密に描写した脚本と演出は、大胆であり野心的だ。普通、こういう人物って「男の子ってガキね」の一言で描写をサラッと済まされる事がほとんどなんだが...。

自分の幼さを知った彼は、行動を始める。「このままじゃイヤだ。とにかく、やるしかない」。それが正しい道かどうかなんてわからない。それでも彼はもがくように行動し続ける。時々「ボク、ホントはこんなんじゃないんだよ!」と弁解したくなる。でもやっぱり、それは幼い言い訳にすぎないんだ。「みんな、ボクの頭の中をのぞいてるわけじゃない。みんなはボクの行動を見ているんだ。ボクが何を行ったか、それでボクが決まるんだ」。

荒削りだけど、それでも彼が一貫して行動するのがイイ。闇雲だった行動が、徐々に徐々に一本の道を築いていく。その過程は見てて気持ちがいい。全力で応援したくなる。やっぱり言葉よりも行動することで自分を表現する人はハツラツとしてて、魅力的だ。

バートンシュマッカーの世界に特別、心を動かされなかった自分にとって、この重厚な心理ドラマとしての表現は敬服に値するデキ。完全にノーラン監督がバットマンを精神映画としてジャックした感がある。しかし毎度毎度、心理学のレポートみたいな映画を撮る監督だなぁ。神経質で優等生っぽい。常にタイトルの字体が同じなのも、なんか微笑ましい。

ヘタに奇を衒わず、ストレートに「闇」を表現した美術と撮影が芸術的。いい仕事。

ちなみに「執事検定」なんかがあったら、参考教材として鑑賞を義務付けたいくらい”執事萌え映画”でもあります。ああ、俺もぼんぼんを陰から支えてみたいなーなんてマンガ的妄想も存分に楽しめる映画でした。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)おーい粗茶[*] プロキオン14[*]

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