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[コメント] 太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男(2011/日)

嘗て日本の一部であり、多くの日本人市民を巻添えにしたサイパン戦を描いた真摯さを評価する。しかし残念乍ら物語としては物足りなさを覚えてしまった。[review追記で反省] ☆3.9点(訂正)。
死ぬまでシネマ

硫黄島でもサイパンでもどこでも、日本軍の守備隊は司令部が消滅した後も米軍との戦闘を続けた。死ぬまで戦うよう教え込まれているのだから仕方がない。この映画は日本のポツダム宣言受諾後も戦闘を続け、米軍を翻弄し乍ら部下の命を守った、実在の青年士官の話である。

無論竹野内 豊はいい男である。表情を出さない演技を続けるのだが、これが名演なのか判断しかねた。判ったのはこのひとは矢張り色男だという事。竹野内のやつれ具合を始め、小隊の面々の演技は(例えば『硫黄島からの手紙』と較べても)素晴らしかったが、俺としてはあと、あともう一歩限界に近づいて欲しかった。限界に達した時、兵隊の目は生気を失ない虚空を彷徨うか、逆に目だけがギラギラと狂気を放つだろう。そこ迄には達していなかったように思う。

唐沢寿明は真面目な戦争映画でもエンターテイメントは絶対に必要である、という持論の下に、自らにそのエンターテイナーを任じていたそうだ。俺もその考えには概ね同意なのだが、実際の唐沢の有り様は失敗している。エンターテイメントである、という事は必ずしもアクション映画のような演技(演出)を意味しないのではないか。『独立愚連隊』の佐藤 允や『兵隊やくざ』の勝 新太郎はどうみてもエンターテイメントだが、しかし彼らにはただのアクション映画でない生身の迫力があった。大陸戦線と死の現実自体は映画の中に存在していたように思う。ただこれこそは唐沢の所為と言うより時代の限界なのかも知れないが。

    ◆    ◆    ◆

追記:

パンフレットに映画評論家の金澤 誠が「戦後世代のスタッフ、キャストが<戦争>と<戦争映画>を捉えなおす試み」と題する評論を寄せている。監督の平山秀幸も「戦争を知らない世代が戦争映画を作るということは、どういうことなのか?」と、竹之内や山田孝之らとその一点を突き詰めていった作品である事が解った。

私自身自分で日中戦争や太平洋戦争を経験した訳ではない。自分の歯がゆさというのは自分の人生で感じてきた、想像する戦争の記憶に届いていない、という事だが、自分のreviewがいつも「時代の限界」などと言っているのを見ると、一種の傲慢・欺瞞以外の何者でもない、と申し訳なく思った。

私は21世紀に入ってから日本は本当に愈々戦争を知らない国になりつつあると危惧してきたし、ここ数年に亡くなった映画俳優の顔ぶれを見ただけでもそれは後5年程で完了してしまうだろうと、思う。しかし、そこから何らかの道を探し出さなければならない以上、今までのような視点で戦争映画を評じてはいけないのかも知れない。

(評価:★4)

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