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[コメント] プラダを着た悪魔(2006/米)

映画の持つなんともいえない切なさが良かった。☆3.8点。
死ぬまでシネマ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







主人公は評価してくれた鬼上司を、最後には理解しつつも裏切る。それはファッション業界を、という事でもある。映画として、ファッションに狂奔しつつ、実際にはファッショナブルになれない一般の女性客に迎合した結果である訳だが、それをあからさまにしないギリギリの見せ方が見事だと思う。

詰まりこんな結論になる以上は、この映画を創っている連中は「ファッション命」ではない訳だ。「ファッション業界なんてクソ共の集まりだ」「ジャーナリズムの方が崇高だ」などと言ってしまったら業界だけでなく観客からも多大な反発が生じるし、しかし「それぞれの仕事を誠実に追求する姿が美しいのだ」などと言われたら「何都合良くまとめてやがるんだよ!」と思っただろう。「<お嬢ちゃん>の<おとぎの国巡り>からの帰還物語」になっているから「映画の観客」にとっても坐りが良くなっている。そして同時に日々の仕事をこなしてる労働者の気持ちも代弁して矛盾を感じさせない、その語り口の巧さこそがこの映画の全てであろう。

そういう語り口の代償として、登場人物は時に失ない、時に裏切る事になる。誰も完全な自己肯定を得る事は出来ないのだ。「仕方がない」ではなく「選択」なのだ、と映画はビジネスマンを鼓舞しているが、俺には逆に登場人物たちの「仕方のなさ」が醸し出す「切なさ」が、最後の爽やかさを生み出しているのだと思えた。

     ◆     ◆     ◆

では蛇足を。

悪魔から次々に降ってくる無理難題。自分の昔の姿を視ているようで懐かしかった。というかそんな余裕な気持ちでなく、今夜あの頃の地獄が夢に出てきそうだ。一人の人間が原因だから笑える映画になっているけれど、沢山の仕事に降り回されているサラリーマンには文句も言えない。

アン=ハサウェイのような美人の彼女に強気に出られる彼氏が信じがたい。アンディ(ハサウェイ)も彼氏も信念を持った人間という表現? いや、俺には自分を解ってない勘違いヤローか、どうしても<上位>で振る舞おうとする男の愚かさに見えたね。俺だったら彼女(アンディ)の華麗なる変身振りにまず絶対オロオロする。「元々可愛かった彼女がとうとう本当に<化け>ちゃった。どうなっちゃうんだろう〜」そしたらなんと自分から別れ話を切り出すとは。あ・り・え・ん! この映画で一番「(筋展開上の)ご都合主義だろ!」と毒づいた瞬間だった。

しかし懸命に働く女の子のけなげ振りを描いてきた映画で、最後の「自分の道を発見する瞬間」を、仕事人としては絶対にあってはならない「職場放棄」で描いたのはどうなのか…。「それぞれの道」肯定映画であるなら、キッチリを仕事を仕上げて職場を去る方が良かったのに。この辺にも、制作者の「本当の顔」が見えないよな(ま、今回はいいけど)。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)りかちゅ[*] ロープブレーク[*]

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