コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ピアニスト(2001/仏=オーストリア)

じっとりと湿った冷ややかさが画面に漲る。シューベルトのように極端から極端に走ることしかできない女が、密室の中で男と無器用にもゼロから性愛の規則を作り出して行く生々しい過程の描写がすばらしい。世俗的希望を捨てた無償の感情を捨て身で表現したイザベル・ユペールに脱帽した。
ジェリー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







キャメラのアングルによって鍵盤やウイーン大学の窓が実に奇妙な直線世界を構成する。その中にあって殆ど表情を変えないユペールが格子の中の人間のように無表情に動き回る。しかし物語の中盤、髪を下ろしたときのユペールの柔らかな艶かしさをしっかりと見て欲しい気がする。自分の衣装をかけた箪笥の前の立ち姿のか弱げな肩の線や、激情して自分のベッドで泣きじゃくる(咆哮する)あごの震えを見落とさないで欲しい。

ハネケが意識しているとは思えないが、この映画のテーマは『道成寺』瓜二つである。道成寺の清姫(白拍子)のようにユペールは蛇となり自分の部屋の床を、あるいはホッケー道具置き場の床を這い回るのだ。そして自分を自傷した瞬間にユペールは脱皮を遂げるのである。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。