[コメント] 赤ひげ(1965/日)
押し引きの強さが魅力だった黒澤作品が、山本周五郎原作を得て、一皮むけたという感じ。この風韻、この抒情がたまらない。
この映画に出てくる人物は、いやな言葉だが下層民がほとんど。多くは何らかの不幸や屈託や傷を背負って生きている人ばかり。療養所の先生方も、下層民ではないにせよ、どうやら例外ではなさそうだ。
こういう人たちを、傍で寄り添うかのように撮ったのがこの作品だ。
優れた水墨画のように、モノクロ画面から、匂い立つような美しい色がほんのりと見えてくる。この微妙さ加減が、壊れ物としての人間の心のひだの微妙さを十全に表現してくれる。人が人に何か働きかけるときにかえってくるこだまのような感情をとらえるのに、これまで積み上げたあらゆるものを使い尽くすような丁寧な運び。望遠レンズの使い方も、少しぶれる画面も大変斬新。細心に編み上げたやさしい色合いの織物のような美しさを堪能できた。
3時間という時間は良心的に長かった。
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