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[コメント] 家路(2001/仏=ポルトガル)

写っている以上の何かが我々に見えてしまうという希少かつ理想的な映画体験を堪能できる。決して日常的な行動以上のことを行っているわけではない男から、生きる充実感も徒労感もありありと立ちのぼってくる。観客は彼の感情について想像をめぐらす楽しさを感じずにいられない。
ジェリー

彼の感情生活についての考察に誘い込む映像だけでこの映画は成り立っている、といってもそれほど言い過ぎではないだろう。取り分け私は、タクシーの窓から見えるパリの町並みの映像や、カフェで話し合う二人の男たちの磨き上げられた靴や、演技している俳優達を見つめる映画監督の微妙な息使いを描いたシーンを愛好するのだが、映像は程よく情報を刈り込まれ(つまり写っているものは少なく)、立体性は微妙に圧縮され、色面の映発によってのみ画面が作られているように見える。しかし、もちろん画面が静止しているわけではなく、それらが人間の呼吸のようにゆっくりとした動きで動くことで、さもそこに感情が描かれているかのような錯覚が発生する。錯覚というと語弊がある。要するに効果なのである。

一見、不必要に長く冗漫この上なく見える、二度にわたる老俳優の舞台上の演技のシーンも、男の俳優としての長いキャリアに対する了解形成には欠かせないもので、こうした地塗りがしっかりすることで、ラストの一見唐突に見えるエンディングにも深い納得感が生まれてくる。

感情表現の自在さにおいて、マノエル・デ・オリヴェイラ並みの腕を持つ人は少ないだろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)赤い戦車[*]

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