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[コメント] トロイ(2004/米)

採点はなし。オーランド・ブルームのパリスへの擁護。  あるいは、パリスの強さについて。
ちわわ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







見たのはテレビでだし、しかもそんなに真面目に見ていないので採点は控える。 (別にいつものようにつけてもかまわないのだけど。)

皆さんの批判の要点は、ブルーム演じるパリスがへぼすぎることにある。 実際映画だけみると、敵に背中をみせて逃げるパリスが、 何でめちゃくちゃ強い英雄アキレウスを倒すのか、と思ってしまうだろう。  これは英雄映画ではけっしてあってはならないことだろう。

しかし、神話のなかでパリスは実際に弱いし、それでもアキレウスを射止める のだから、神話の内容を変えてしまわないかぎり、これは仕方ないのである。

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そもそもパリスはどういう男だったのか?

パリスはスパルタから美女ヘレナをさらって、トロヤ戦争を引き起こした人物 である。

イリアス』3巻で、パリスは戦いの最中、ヘレナの元夫のメネラオス(つおい)を見るや否やすぐに怖がって逃げ出す。本当に「臆病で弱い」のだ。

これを見た兄のヘクトルまでがパリスのことを、「臆病者、女たらし、国の恥さらし お前なんか生まれてこなければよかった」と蔑む。

そのときパリスはその事実を認めつつも、次のように言い返している。

「黄金のアプロディテの下されためでたい賜物については、とやかくいってくれるな。 神々の下される見事な賜物は、拒むわけにはいかぬ。神々が自ら進んで賜るものは、 なんぴとといえども、己の意志でどうこうできるものではないのだ。」(松平千秋訳)

パリスはめちゃくちゃに弱いし、臆病である。しかし『イリアス』でパリスは けっして情けない男として表現されてはいない。なぜなら、パリスはめちゃくちゃハンサムだからである。

パリスは、愛の女神アプロディテ(ビーナス)にいつも庇護されている。 パリスが敵に殺されそうになると、アプロディテは近づき、敵の目からパリスを 隠してくれる。

パリスはアプロディテの庇護を受けている。だからパリスはこんなにハンサムだし、 またアプロディテがプレゼントする賜物(=美女)はけっして拒んではならない 運命をになった人なのだ。だからパリスは、ヘレナを奪わなければならないし、 ヘレナを抱かなければならない。

それにヘレナがこんなに美人ですべての男性に愛されるのも、アプロディテの力ゆえなのだ。いわば二人はアプロディテの敬虔な信者として、愛しあい、戦争を引き起こすの である。

さっきの引用の「めでたい賜物」だけど、それは1美女ヘレナ、2パリス自身の美貌(女たらしとして生きる運命)、のことなのである。

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単に戦争で活躍する強くて勇敢な英雄だけでなく、 戦争では弱く臆病なのにめちゃくちゃにハンサムで女たらしの人物を、 同じく「英雄」として表現する古代のギリシャ人がわたしは大好きだ。

パリスがアキレウスを最終的にやっつけることも、アプロディテの庇護を 受けたもの(美の使者)の「強さ」をあらわしているように思う。

古代ギリシャ人は、「女たらしの強さ」を私たち以上に理解しているのである。

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で、オーランド・ブルームだけど、皆さんと逆に、私は「いい役をもらった なあ」、といいたい。彼は一応、外見だけで美男子であることは伝わる わけだし、まあ適役なのである。

この映画でもしも問題があるとしたら、パリスの設定でも、ブルームの演技でも なくて、「パリスの強さ」を表現できない演出にあると思う。

でも、「アプロディテの力」を表現するのは現代の映画では難しいかもしれない。 『イリアス』のように、神々を登場させ、神々に語らせるわけには たぶんいかないのだから。

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