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[コメント] ボウリング・フォー・コロンバイン(2002/カナダ=米)

裏通りの勝手口から撮った”アメリカ”。ハリウッド映画で見る”アメリカ”の、裏に抱える別の顔が一つ一つ腑に落ちる。これだけでも観る価値のある映画。
G31

**ネタバレ注意**
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「不安」なる 毛布にくるまり 暖を採る

 ハリウッドに代表されるアメリカ映画を、表通りのショウ・ウィンドウから見た”アメリカ”だとするなら、この映画は裏通りの勝手口から踏み込んで撮った”アメリカ”だと言えるだろう。われわれが大好きなアメリカ映画で見る”アメリカ”の、裏に抱える別の顔が分かって、一つ一つ腑に落ちる感がある。これだけでもこの映画は観る価値がある。

 コロンバイン高校の事件をきっかけに、どうして俺たちの社会ではこんな悲劇が起きるのだろうと疑問を持つ。世の中で起きた事件を身近な問題として捉え、素朴な疑問から出発する、これはドキュメンタリーとしては当然の手法であろう。この作品が凄いのは、観る者が理解しやすい手掛かりを探り出し、そこから新たな問題意識へと道をつけていることだ。率直に言って、今までアメリカで銃殺事件が多いのは、社会に出回る銃器の数が多いからだと疑わなかった。隣国カナダでは、銃の普及度も、簡単に手に入ることも変わらないのに、銃殺事件は全然少ないなんて意外だった。

 最も衝撃を受けたのは、一般のカナダ人が一様に「家に鍵は掛けない」と答えるところだ。トロントの青年は「米国人は(近所を恐れているので)鍵を掛けることで、他人を締め出したと考える。カナダ人にとって家に鍵を掛けることは、自分を閉じ込めてしまうことだ。それは・・・、そんなことはしたくない」と語る。マイケル・ムーアも自分のことを「家に三つも鍵を掛けてるアメリカ人」だと言っていたが、俺だって3つとは言わないが家に鍵は絶対掛ける! そんな風に言われりゃ、確かに自分を閉じ込めるようなことはしたくないという気にもなるが、絶対今夜も掛けて寝る! だって、そうしないと安心して寝れないじゃん! そりゃ確かに今まで泥棒に入られたこともないし、入ったところでたいして盗る物もないけどさ、だからって鍵掛けないで寝るわけにいかないだろ?!何があるかわかんないんだから!・・・むむむ、俺も確実に不安という名の毛布にくるまって暖を採ってるな。(いまいち意味不明な比喩だ)

 日本がもし銃社会になったら、「カナダ」ではなく「アメリカ」になるのではという危惧を示す方(コメンテータ)がいたが、その気持ちはよく分かる。この国だって昔は鍵なんか掛けなかったはずだが、いまやすっかり「不安と消費」の経済構造にはまり込んでいる。このまま行ったら、そのうちアメリカみたいになる・・・という不安は杞憂かもしれないが、日本は銃が出回ってないから「不安と消費」の社会のままでいい、とはとても思えない。じゃ、どうすりゃいいの?という問いに対する答えは、映画の中にはないけれど。カナダはどうして「不安と消費」の文化に染まってないのだろう、同じ先進資本主義国なのに。疑問は尽きない。自分とは無関係な社会のお話だと思って観ていても、突然自分たちのところに問題が跳ね返ってくるから、人間社会と真剣に組み合う作品は怖い。

 ただ、ハリウッド映画に代表されるアメリカ文化にも、この種の健全な批判精神は含まれていると思う。マイケル・ムーアのこの作品も、突然ひょっこり生まれたわけではない。彼自身、それでもアメリカとアメリカ文化を愛している、という気持ちを持っている。考えさせられる、という理由だけで過大評価はしたくない、という感じかな。報道陣を引き連れてKマートへ抗議に行くなんて、映画を締めるアクセントとして以外に何の意味もない。「銃が簡単に手に入ること」がコロンバイン高校の事件を引き起こしたわけではないって結論は、自分が導き出したんだからね。絵と音楽が雑然と入ってくるのも好きじゃない(ドキュメンタリーだろうがなんだろうが関係ない)ので、一つの映画作品としては、75点(標準は超えている。こちらから薦めはしないが、友達から聞かれたら、面白かったよ、と答えるレベル)くらいかな。

(03/10/19見)

(評価:★3)

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