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[コメント] 蝶の舌(1999/スペイン)

主人公の可愛らしさと、ガリシアの美しい自然が印象に残っています。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







顕微鏡購入のエピソードが挿入されたので、てっきり「蝶の舌」が見られるものと期待したのですが、その期待はあっさり裏切られ、モンチョ君は虫採り網と老先生を置き去りにして、女の子たちの声がするほうへと走り出しました。この瞬間、「おおっ!ここから“ヴィタ・セクスアリス”が始まるのか!虫ケラと戯れてるよりいいよ、正しいぜ、モンチョ君!」と、構成の見事さにむしろ感動を覚えたのですが、そっち方面にも展開することなく、直後、連行される共和党派に石を投げつけるシーンで突如終わってしまいました。

だったら「蝶の舌」見せてほしかったな、というのがまず1つ。

もう1つは、ラストで転向の問題が出てきたので、突然大人の物語にすり替わってしまったように感じました。

共和党派がアジトから連れ出されるシーン、うなだれて視線を落として出てくる人たちの最後に、老先生が出てきます。彼だけは、真っ直ぐ前を見、それまで自分に好意を寄せていた人たちの、敵意と好奇の視線の圧力に、たじろぎながらも見返す眼力を持っていました。しかも、モンチョの父親が仕立てた上等のスーツに身を包んで。このシーンはほんとに感動モノでした。

直後、息子の恩人であるこの先生に、母親が罵声を浴びせます。私としてはこの行動にショックを受けましたが、ここまではまだ理解できます。「不信心者!」と言うだけで、「裏切り者」とも「赤」とも言わないので、彼女なりのぎりぎりの選択だったのだということが伝わってきたからです。だが問題はこのあと、父親です。泣き顔でクシャクシャになりながら「赤」だの「裏切り者」だの罵っているのですが、「え〜い、そんなんじゃ仲間(=共和党派)だってことがバレバレじゃん!」。もしかしたら内面の葛藤を表わしているのかもしれませんが、そこはそれを表に出してはマズイ場面でしょう。ま、これが最後の登場シーンなので、ここで表わしておくしかなかったのでしょーが。

という突っ込み(?)はおくとしても、それまでのエピソードの積み重ねで、この仕立て屋が原則的には善人だという事は観客にはわかっているので、そこは毅然として罵ってくれないと、転向をきちんと描いたことにならないじゃん?という感じです。まあ、観客にしっかりメッセージを伝えたという自信がなかったからそうしたのかもしれませんが、いずれにしても、甘っちょろいです。

いま現在は王制を敷くスペインで、共和党派に属した過去を持つことと、共和党派を迫害した過去を持つことの、どちらがよりマズイのかはわかりません。が、転向問題は我が身や我が周辺に跳ね返る問題なので、描くのに勇気がいるということはわかります。だから入り口まで描いたことをもって、よくやったとしなければいけないのかもしれません。ですが、どうせ描くなら、真正面から描き切るのでないと、意味がないような気もします。というより、転向問題を持ち出さなくても、このお話の成立になんの差し支えもないのではないでしょうか?

***

てなわけで、モンチョ君の成長譚とラストを結び付けて考えてなかったので、ペペロンチーノさんの「モンチョ君ラストシーン心情解釈問題」については、あくまで後付けの考えですが、とことわった上で、お応えさせていただきます。

1)受け止め方:親や周囲の大人の影響を受け、モンチョ君はモンチョ君なりに、心の中の老先生や老先生にまつわる想い出に対し、訣別したものと受け止めた。

2)解釈:とはいえ、それは子供にとってはとても大きな心変りなので、頭の中はグルングルン。だから、口に出す言葉もほとんど無意識ないし反射神経で言ってるだけ(ここまでは皆さんと同じ解釈でしょうか)。が、心情的には老先生とは訣別しているため、あくまで罵倒しているつもり。「ティロノリンコ」も「蝶の舌」も、自分の中で×(バッテン)マークをつけた先生の記憶と供にあるため、やはり罵倒語のつもりで言っている。

3)結論:本気で罵倒しているのだが、言葉自体は反射神経で出てくるだけ。先生の教えた言葉が、単なる罵倒語替わりに使われるのを、(先生と一緒に)悲しく噛みしめる。

しかし、老先生に対する裏切りには違いないわけで、裏切りを知ることが大人の階段の1ステップだとするのは、幼年期から少年期への成長譚としては、ずいぶんグロテスクな話だということになりませんか?うしろめたさからくる言い訳だとしても非道すぎます。

70/100(01/12/15見)

(評価:★3)

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