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[コメント] 男はつらいよ 寅次郎夢枕(1972/日)

趣味は「旅行」で、もっと笑えたらな。「冗談」てのは、便利な言葉だが、寅さんシリーズにおいては残酷な言葉かもしれない。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 寅さんを順番に観てはいないので、「職業は」セールス、「売っているものは」出版関係、というネタに、前にも見たなと。第17作・夕焼け小焼けだったか。的屋=物売りだからセールス、本(「めばえ」かなんかだったが)も売っている=出版関係、あたりで上手いこと言うなとクスリとでもできていたなら、葛飾商業は早めに卒業、趣味は(日頃から日本中を旅しているから)旅行で、大笑いできていたのかもな。

 「お千代坊だろう!ちったぁ見られる顔になったじゃないか」

 千代(八千草薫)からの告白に、寅は八つ橋の欄干にへたり込む。寅に幸せになってほしいと願う(でもならなかったことを知っている)観客からすると、なぜそこで前に出ないんだ、だからお前は駄目なんだと、歯がゆさを感じずにいられないシーン。

 寅に、千代の真剣な気持ちが伝わらなかったはずはない。寅自身にも、千代を想う気持ちがあったはずじゃないか。桜も「お兄ちゃん、お千代さんのこと好きなんじゃないかな」と言っていた。でも寅は、へたり込んだ挙げ句、冗談として片づけようとしてしまうのだ。

 寅さんファンとは、これを、寅に千代を想う気持ちがあったからこそだと、考える人たちのことだろう。確かに寅語りで定義される“恋愛感情”=寝ても覚めても、ご飯を食べていても大きな用事を足していても、相手の顔がチラつく=とは違う。だが寅自身が、自分の言葉に縛られてしまったのではないかと。他人の恋愛感情には敏感だが、自身のそういう感情には自分でまったく気がつけないか、なかなか気がつけないキャラクターだった寅だからと。自分のより先に大学助教授のそれに気づき、それをおちょくって楽しんでやろうという気持ちが先走った、そんな設定なのではないかと。相手の気持ちにも、自分の気持ちにも気づかず、別の男の仲介役を買って出るなんてのは、寅の中の理想像から言っても、大失態の屋上屋だったのではないかと。そんなような。

 千代が寅の「冗談」に付き合うことにしたのは、自身がいたたまれなかったからだろう。だが後に、寅屋に集う面々の前でも、「どうして笑うの」と色をなしておきながら、結局は「冗談」に付き合ってしまう。これは、いまさらそれを真面目な話と受け取ったところで、もはやどうにもならないことを知る、寅屋の面々の優しさの表れだからだ。だがこの優しさは、その可能性の芽をも摘み取ってしまうという意味において、残酷さと裏表であるように思わされたことだった。

75/100(18/12/24記)

(評価:★3)

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