[コメント] シモーヌ(2002/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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『ガタカ』(1997)、『トゥルーマン・ショウ』(1998)により、注目してる若手監督のアンドリュー=ニコル監督最新作。かなりの期待はしていたのだが…
それでも観てる間はとても楽しかった。コメディ・タッチで作られた本作はキャラクターや配色などがきちんと立っていたし、ストーリーだってかなり良かった。コメディと言っても一筋縄ではなく、むしろブラック・コメディと言えるラストシーンも結構好み。設定とかには非常にアラが多いが、楽しめた作品だった。
だけど、観終わってからしばらくして、何か腑に落ちないところが出てきた。面白いはずのストーリーにどうもひっかかる。うーん、なんでだろう?と、しばらくぼんやり考えてみた。とりあえずSF的な部分を全てはぎ取って、純粋なストーリーとして考えてみる…誰か他人になりすまし、人に賞賛されようとしたら、虚像の方が受け入れられてしまって引っ込みがつかなくなり、やがて虚像に殺意を抱く…うん。コメディでは定番といえるようなもんだ。その類型を辿ってみる…と、わかった。このストーリー、まんま『あなただけ今晩は』(1963)じゃないか。あっちではイルマ(マクレーン)という一人の女性に対し、ミスターX(レモン)という虚像を作り上げるんだが、こっちではそれが不特定多数の人間に対象が変わっただけだ。オチまで似てる…ってか、あの作品のオチを逆手に取ってる。道理で面白いと思えた訳だよ。でも、そうなってしまった以上、本作の評価は下げざるを得ない。
…虚像が実体よりリアリティを持ってるってテーゼは今の映画界のみならず、実社会においても通じる面白いテーマで、深読みすれば色々面白いんだけど、もう一ひねりが欲しかったかな?
キャラクターに関しては言うこと無し。これは見事なはまり具合。パチーノは老体にむち打って結構アクションしてくれるし、表情の変化や笑いの取り方も巧い(口紅は笑えた)。あんまり登場はしてないけど、ウィノナ=ライダーも演技の幅をますます増した感じ(劇中の自主的にオーディションのまねごとをするシーンは見事だった)。シモーヌ役のカナダ人モデル、レイチェル=ロバーツの謎めいた雰囲気も良い。個人的には子役のエヴァン=レイチェル=ウッドの小悪魔的な魅力が一番ツボ。一つ間違えば生意気なだけのガキになりそうな所をギリギリで最大限の魅力を保っていた。
演出に関しては結構面白い部分もあるのだが(場面毎に色によって演出を変えるとか、虚像と実像の狭間を感じなくさせるとか、プログラムであるはずのシモーヌの表情が、パチーノの演技によって変わって見えるとか)、ちょっと問題なのは画面にあんまりにも手を加えすぎてて、嫌味に見える。特にシモーヌのポップアップが置いてある場面はそれを目立たせようとマットで抜いて作ってるように見えるんだが、画面の中心がおかしくなってしまう(何カ所か通常のカメラでは絶対に撮れない場面が登場するが、殆ど意味がない)。勿体ない作り方だ。
設定に関して言えば、あまりにもアラが多すぎ。ホログラムを使ってのコンサートって、電源大丈夫なの?とか、インタビューでの背景は明らかに浮いてるぞ!とかいくつもあるが、一番の問題はシモーヌの声をパチーノが言ってるって点だろう。実体の分からない人間の正体を探す方法は素人の私だって、こういう場合いくつもの手を考える。一番有用な方法の一つには、シモーヌの声紋を取るって事なんだが、これやったら一発で声出してるのが男だって分かるよ。それを考えてる奴がいないのは変だろ?コンピュータマニアだったら、画像の荒さとか見てプログラムだって事分かる人間だっているだろうに。あとどうでも良いけど、あれだけのことをやってのけるパソコンが妙に古くさいのは何故?今時8インチフロッピーなんか使うか?ラストにハンクが命を削って8年間もかけて作ったプログラムが一人の娘によって僅かな間に再現されるってのも相当無理ないか?
…とりもなおさず、キャラクターの立ち具合だけで★1プラスとさせてもらおう。
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