[コメント] ディスタンス(2001/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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印象に残るのは夜中に小部屋で宮沢賢治を読む旦那の件と、喫茶店で他の男に連れられて別れを告げる妻の件。ふたりは突然に「宗教的」になって、家庭の経済原則を無視する他者として立ち現われる。カルト教団は別の食い扶持を提供してくれる場所でもあったのであり、宮沢賢治が引用されるのは正しい。彼等加害者家族の罪は「宗教」を欠いた生活を家族に強いていたことだと一方的に断罪される。そして本作は彼等にも非日常で「宗教的」な一晩の体験を与える。
ということであれば、本作の主題は例えばゴダールの『ウィークエンド』と同じであり、いくらでも過激な展開に持っていけるところを、彼等は祭りの後の日常に帰ってゆく。一晩を過ごした明け方の、日常へ戻る帰路の描写は美しい。がしかし、そんなに簡単に戻っていいものか。いや、戻る外ないのだ。オウムの経験の後、『ウィークエンド』など冗談ではない。
「真理の箱舟」という教団名から、本作はオウム真理教に対し「イエスの箱舟」の価値観を対峙させる試みだったのかとも思う。カルト教団を巡る報道・論評・作品は、80年代以降、山ほどなされてきた。「イエスの箱舟事件」についてはビートたけし主演の優れたTVドラマがあった(暴走した報道に係るテレビ局の贖罪にみえた)。オウムなかりせば、浅野忠信は登場せず、そのまま山に留まるARATAや夏川結衣という展開もあっただろう。オウムのあと、そんな展開は吐き気を催すだけだ。そしてミニマムな日常だけが残った。オウムの影響は果てしなく大きい。
本作の美点は、時代が背負わされた事実確認を丁寧に行ったということなのだろう。そして是枝監督は、翌朝の前向きでミニマムな美しさを選択した、ということなのだろう。
話法としては、序盤の車を盗まれた際の選択はやや無理気味。一本道であり女性もいるのだから当然、何時間かかっても徒歩で戻ろうとするだろう。この無理矢理感が全編に悪影響を与えていると思う。
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