[コメント] 三文役者(2000/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
殿山泰司の私生活について何も知らずに観て、面白かった。重婚じゃないか。喜劇タッチが道徳的な非難から絶妙に主人公を救っている訳で、吉田日出子の軽みが素晴らしい。荻野目慶子もそうで、深作映画にあった辛気臭さが抜けて達観の域にいる。騒動後の代表作だろう、芸の肥やしという言葉がぴったりくる(同い年なんでちと思い入れがある。干された後テレビで歌ったGone the Rainbowはしみじみ良かった)。
竹中直人は物真似芸出身だから損しているが、他に殿山を演じられる役者がいたとも思われず。ワンパターンの喋り方で通すのが後半には面白味になっている。半裸で逃げる荻野目を町中で捕まえる件がいい。
映画は、リアリズムから半歩ズレた新藤流の即物的な撮り方が、セミ・ドキュメンタリーと相性が良い。養子のふたりが登場する度にとんでもなく成長しているカットなど笑える。ただ、相性が良すぎていつものアクがなく、アッサリし過ぎている。トロフィーを窓から捨てる件までギャグにしているのは軽すぎるようにも思う。良かれ悪しかれ、追悼の喜劇映画、という枠をはみ出すことがなかった。主役間の年齢構成や時代背景などの無茶苦茶が許されてしまうのは低予算の近代映協ならではで、シュールな味まである。あと、横浜の移転前(ですよね)のジャズ喫茶「ちぐさ」が懐かしい。
新藤監督の著作は未読だが、田中絹代の伝記からの類推では、この人は映画同様、人物を描くにあたって性と愚かさに比重を置き過ぎる傾向がある。本作も良くも悪くも新藤脚色の殿山。ご本人はインテリでしょう。彼のフィルモグラフィーを眺め直したが、何らかの意味での意欲作がほとんど。仕事を選ばなかった、というのは照れ隠しのダンディズムだと思っている。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。