[コメント] ルナ・パパ(1999/日=独=オーストリア)
この馬の爆走を低空飛行の空撮のような移動撮影で見せる。トラックに載せたカメラで撮影しているのかもしれない。高速の移動撮影がすこぶるダイナミックな画面を作る。冒頭だけでなく、こういう画が度々出てくる。あるいは、複葉機が低空飛行する。これも全編何度も出てくる。この飛行機の操縦士は、後半、重要な人物になる。
子供(男の子)の声のナレーションが入る。この子のお母さん、マムラカット−チュルパン・ハマートヴァの物語。冒頭のマムラカットは17歳の設定で、とても可愛い。彼女がほとんど出ずっぱりの女優映画だ。ちなみにナレーションの男の子は最後まで出てこない。また、マムラカットの兄、ナスレディン−モーリッツ・ブライブトロイも冒頭からラストまでからむ良い役。物語はマムラカットが母親のお墓で近況報告するシーンから始まる。急に「ナスレディンの薬を忘れてる!」と叫ぶ。兄のナスレディンは、両腕にガラス瓶をぶら下げて、飛行機になっている(つもり)。自動車になったりもするし、悪魔と戦っているとも云う。
また、戸外のシーンは、後景に挟雑物がワザと配置されている。複葉機が飛んでいるのもその一つ。ロバに乗った人とか、乳母車を押す人とか、ラクダ、逃げたラクダを取り押さえようとしている人たち。あと、装甲車の軍人たち。こういう志向は、『少年、機関車に乗る』から見られるが、本作の徹底ぶりはレベルが違うし、これにより、とても面白い画面が続くのだ。
マムラカットは演劇好き。船で洋服を売る商人から、お父さんが、彼女のために白いドレスを買ってくれるシーンが素晴らしい。船に乗って演劇を見に行っていいと云われたマムラカットが、車の上でダンスする仰角ショットは、ポスターなどの宣材に使われるのも納得の美しさだ。さらに、演劇の終了した夜の藪の中で、俳優と名乗る男性と交わる場面の幻想性も、こんなの他で見たことが無いという演出じゃないか。岸辺の崖を滑り降りながら、後ろから抱きしめられ愛撫される。スカートが捲れ上がる様。夢のような映像表現だ。「しずく」がマムラカットの中に着床した、という可愛い声のナレーション。
この後の展開に関わることはもう記述しないが、度々出て来る湖の水の色が、緑がかっていて、空は青に近い灰色の曇天。これが何とも云えない美しさでウットリしながらラストまで見る。随所で挿入されるギャグのような非現実的な演出も驚きに溢れている。例えば、複葉機の操縦士が低空飛行で羊をさらうとか、船上の結婚式で、唐突に空から牛が落下してくるとか。そして、ラストは、これらに輪をかけたようなファンタジーになるけれど、これをビターと取るか、ハッピーと取るかは観客によるだろう。いずれにしても、ナレーションは、マムラカットの息子なのだ。
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