[コメント] 酒とバラの日々(1962/米)
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ハリウッドには定期的に酒やドラッグ依存を描いた作品が登場する。一流とされる監督が挑戦のために、そしてそれに選ばれた役者が超一流となる試金石のようなもので、おそらくはこれからも作られていくのだろう。いくつもの作品があるが、最も古く、かつ凄まじいのがワイルダー監督が「失われた週末」だろう。陽性の作品を量産するワイルダーが全く救いのない話を、渾身の力を叩きつけたかのような作品だが、次に挙げられるならばおそらくは本作になるだろう。
既にエドワーズは前作「ティファニーで朝食を」でその実力を見せているが、そこから分かる彼の特徴は内容的に重い話をしっかりコミカルに描けるというところにある。何より一般からちょっと外れた人間の描き方がとても優れている点にある。
ワイルダーの「失われた週末」の場合アル中に落ち込むのは主人公一人。周囲の人間はなんとかそれをなんとか更生させようと奮闘する側に立つのだが、本作の場合はもっと深刻で、一人の酒飲みが周囲に及ぼす負の連鎖に主眼が置かれる。これまたリアリティに溢れ、観ていて正直きつすぎる内容になってしまった。
ただ、そのきつさをしっかりエンターテインメントとして見せることが監督の実力だろう。単に痛々しくて目を背けるよりも、むしろしっかりと観ようと思わせるところが本作にはあり。無関係な人間であれば、はたで見ている限り、酔っぱらっている人を眺めているのは楽しい所もあるのだし、それでどこか後ろめたい笑いがそこに生じる…これってイギリス流の笑いなんだが、アメリカ人であるエドワーズ監督がこれを出来るのが凄いと思う(だからこそ「ピンクパンサー」シリーズなんかが作れるんだろうけど)。
その徐々に進行していくアル中役をレモンが真っ正面から受け止め、直球そのもので演技していた。冒頭の陽気さが徐々に陰ってきて、中盤以降はまじめくさったか、あるいは怒りの表情へとどんどん変化していく過程は、痛々しさを倍加。最後は苦悩を背負った穏やかな顔へと変化するのだが、この表情には彼の背負っているものを感じられる。
自分さえいなければこんな事には…結局人の運命を変えてしまうからこそ、人生は重い。ここまでの重いものを持ちつつ、しかし最後は人生を歩き通そうと決意する。彼は確かに駄目人間かも知れないけど、人生からは決して逃げてない。これまでの負債を背負って生き続けていく。それを感じられただけでも、本作はそのままの悲劇ではない。
レモンは元々器用な役者なのだが、デビュー作の「ミスタア・ロバーツ」でのコミカルな演技と、「お熱いのがお好き」で完全にコメディ役者として知られてしまった(レモンの評価を決定づけたワイルダー監督が「失われた週末」を監督しているのが皮肉なもの)。しかし、本人の望みはシリアスドラマを演じることで、本作でようやくその本懐を果たしたと言える。コメディで培った演技力は素晴らしく。まさに技巧派の面目躍如。 サポート役であるレミックは、上品な役は今ひとつ似合わないが、酒乱になってからの演技はやはり鬼気迫るものあり。むしろこの人は限界の精神を演じるのに適してるのだろう。
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