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[コメント] ベニスに死す(1971/伊)

究極。ヴィスコンティの耽美主義と退廃主義が折り重なって発揮され、さらにマーラーのアダージェットも加わって、胸を締め付けるほどだ。
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 台詞がほぼ無いに等しいこの映画において、アッシェンバッハの視線としての役割を果たすカメラと、演じるダーク・ボガードの表情の演技が、作品において実に大きな意味を持っている。そのボガードの表情だが、終盤に向うに従ってアッシェンバッハの状態は悪化する一方なのに、ボガードの顔からは薄ら笑いが消えない。「美」については自らの価値観を美少年タジオによって完全に壊されてしまったが、「愛」という点ではどんなに苦しい状況にいてもタジオに出会えた喜びが垣間見れているように取れる。精神が崩壊していくにも関わらず、笑いが見えてることで、観客側としては余計痛みを感じてしまう。ボクはシンプルな作りのこの映画を観ながら、胸が締め付けれる思いが続いていた。

 タジオを演じたビョルン・アンドレセンは確かに美少年だ。男性的であり、女性的でもある美しさを兼ね備えている。男性が見てもアッシェンバッハと同じように、その美しさに圧倒されてしまう。アラン・ドロンヘルムート・バーガーと美しい男性俳優を溺愛したヴィスコンティのことを考えると、アッシェンバッハとタジオの間接的な関係の中にホモセクシャル的な解釈が入るのも仕方がないだろう。

 映画の中で一点不満があるのは、季節風によるベニスの暑さを映像として表現しきれていなかった点。台詞での説明があるまで、あまり暑さのことを気に留めなかった。ヴィスコンティは『異邦人』で熱く照り付ける太陽をうまく映像化していただけに、不満を感じてしまった。(作品としては断然『ベニスに死す』の方が格上ですがね)

 『ベニスに死す』はヴィスコンティの耽美主義において、究極の作品だと思います。

(評価:★5)

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